小学館が発行する「週刊ビッグコミックスピリッツ」に連載中の漫画「美味しんぼ」で、「福島県や大阪府で福島第一原子力発電所の事故に由来する放射線によって鼻血が出るなどの被害が起きている」との記述があった。その一方で、福島県や大阪府は5月12日、小学館に対して「そのような症状は確認されていない」として、小学館に対して抗議を行なっている。
美味しんぼでは、4月28日と5月12日発売号で「放射線の影響による鼻血が出る表現」「除染しても汚染が取れない」「福島はもう住めない」といった特定の個人の見解が、あたかも福島県の現状そのものであるように描かれていたと福島県は指摘。
「これらの表現は、福島県民と、県を応援する国内外の方々の心情を全く顧みず、ことさらに深く傷つける」として遺憾の意を表明。その上で、それぞれの表現に対する反証を掲載している。
例えば、鼻血が出るとの表現については「高線量の被爆があった場合に鼻血が起こるが、県内外に避難している一般住民は、こういった急性放射線症が出るような被爆はしていない」と反論。これは、国内における評価だけではなく、国連科学委員会(UNSCEAR)の報告書からも見て取れるものだという。
また、「除染しても汚染は取れない」との表現については、除染を実施している施設などで、除染と物理的減衰によって、60%以上の着実な空間線量率の低減が見られているとした。
最後に「福島は住めない」との表現については、世界保健機構(WHO)の表現を引用し「被曝線量が最も高かった地域の外側では、福島県であってもがんの罹患リスクの増加は小さく、がん発生の自然のばらつきを超える発生は予測されない」との評価を受けていることを強調。国連科学委員会(UNSCEAR)の報告書でも、将来的に被曝による健康影響の増加は予想されていないことを明らかにしている。
なお、福島県によると、5月19日発売号で「漫画の誌面では掲載しきれなかったさまざまな意見を紹介する検証記事を掲載する」と、小学館から文書回答を求める取材があったという。
取材の内容も公表しており
「美味しんぼ」に掲載したものと同様の症状を訴えられる方を、他に知っているか。
鼻血や疲労感の症状に、放射線被曝(※依頼原文では「被爆」)の影響が、要因として考えられるかどうか。
「美味しんぼ」の内容についての意見
の3点を編集部宛に回答している。
大阪府も抗議
大阪府については、5月12日発売号で「大阪で、受け入れたガレキを処理する焼却場の近くに住む住民1000人ほどを対象に、お母さんたちが調査したところ、放射線だけの影響と断定はできませんが、眼や呼吸器系の症状が出ています。」「鼻血、眼、のどや皮膚などに、不快な症状を訴える人が約800人もあったのです。」(原文まま)との記述があった。
しかし、大阪府によると「岩手県宮古地区の災害廃棄物を受け入れているものの、運搬や焼却などのそれぞれの段階において放射線量測定を行なっており、受け入れによる影響は確認していない」という。そのため「漫画に記述されているような健康影響が出るとは考えられない」と、因果関係を否定。
その上で、大阪府として保健センターや医師会にそのような健康被害が存在しているか重ねて確認を行なったが、「作中に表現のある状況は確認できなかった」としている。
大阪府と大阪市は、事前の取材を一切受けておらず「漫画の記述は、大阪府民に無用な不安を煽るだけではなく、風評被害を招く恐れがある極めて不適切な記述」として、小学館に厳重に抗議を行なった。