東京工業大学(東工大)と茨城大学、豪州原子力科学技術機構(ANSTO)は5月7日、酸化物イオン伝導体の新しい構造ファミリであるネオジムバリウムインジウム酸化物(NdBaInO4)を発見し、さらにその結晶構造の決定、同物質における酸化物イオンの拡散経路の可視化にも成功したと発表した。
同成果は、東工大 理工学研究科物質科学専攻の八島正知教授、藤井孝太郎助教、茨城大学の石垣徹教授、星川晃範准教授、豪州原子力科学技術機構(ANSTO)のヘスタージェームス博士らによるもの。詳細は、「Chemistry of Materials」に掲載された。
酸化物イオン伝導体は、固体酸化物形燃料電池や酸素濃縮器などに使われており、新材料発見はこれら機器の高効率化や新規酸化物イオン伝導体、電子材料の開発を促すと期待されている。研究グループは、新しい層状ペロブスカイト関連構造をデザインするために、AA'BO4の様々な化学組成を調べてきた。AA'BO4のAとA'は大きな陽イオンであり、Bは小さな陽イオンである。この研究において、多くの化学組成を調べた後、酸化物イオン伝導性材料の新しい構造ファミリであるNdBaInO4を発見したという。
そして、中性子および放射光X線粉末回折法および第一原理電子状態計算でNdBaInO4の結晶構造を調べた。中性子回折では酸素原子の位置パラメータを正確に決めることが可能。また、X線粉末回折データを用いてNdBaInO4の未知結晶構造解析を実行した。NdBaInO4の結晶構造解析には、J-PARCに設置された茨城県の中性子回折装置、豪州ANSTOに設置された中性子回折装置、大型放射光施設SPring-8および高エネルギー加速器研究機構(KEK)放射光科学研究施設(PF)に設置された放射光X線回折計が用いられたという。
その結果、NdBaInO4の空間群は単斜晶系のP21/cであることが見いだされた。NdBaInO4の結晶構造の妥当性をSPring-8およびPFで測定した放射光X線粉末回折データのリートベルト精密化、J-PARCおよびANSTOで測定した中性子回折データのリートベルト解析、Nd,BaおよびInイオンの結合原子価の総和、密度汎関数理論に基づいた構造最適化によって確認した。さらに、NdBaInO4の酸化物イオンの拡散経路を結合原子価法により可視化した。酸化物イオンはA-O(Nd-O)ユニット内を2次元に移動できるとしている。