京都大学iPS細胞研究所は4月28日、ノーベル賞受賞者の山中伸弥所長(教授)らが2000年に欧州分子生物学機構(EMBO)雑誌に発表した論文の図とグラフについてインターネット上で2つの疑問点が指摘されていたことを明らかにした。調査の結果、画像の切り貼りなどは認められず、「論文の内容が正しい」と疑問を否定した。しかし、山中教授以外の共同研究者のノートや資料、図表の原データが保存されていないことを報告し、「遺憾」とした。

この論文は、NAT遺伝子をノックアウトしたマウス胚性幹細胞(ES細胞)を作製し、この遺伝子の機能がES細胞の分化に重要な役割を果たすことを示した。その後の人工多能性幹細胞(iPS細胞)発見につながる研究のひとつで、山中教授らが大阪市立大学医学部助手のころに行った実験だった。

山中教授は会見で「論文の結果は発表後も、研究室内の複数の研究者により再現されている。研究者倫理の観点から、適切でないことを行った記憶はない。その必要性もなかった」とコメントした。指摘された2つの図の原データを提出できないことを反省し、「今回の事態を真摯に受け止め、今後、さらなる研究倫理の遵守に努める」と約束した。また[日本の研究の信頼が揺らいでいる状況で、このような報告をしなければならないことをおわびする]と謝り、「日本の科学者の見本となるべき立場であることは十分理解している」と語った。

指摘された疑問点について具体的に検討したところ、遺伝子データの画像は類似しているが、同一でなく、切り貼りした痕跡はなかったという。グラフで標準偏差がすべて近似して不自然という第2の疑問点については、山中教授の資料にデータがあり、グラフにすると、同じ結論になった。この問題では、山中教授が調査を申し出て、昨年4月から、森沢真輔副所長が中心になって調査してきた。この時期の公表になった事情について、山中教授は「きょう雑誌社から記事にするとの連絡があり、それが後押しした」と話した。

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