ECサイトでのコンテンツマーケティング成功事例厳選4選から学べること

先進的な取り組みを行うECサイトにおいて、ソーシャルメディアの活用はもはや常識的となりつつあるが、具体的にどのようなことを行うべきか、なかなか分かりにくい部分が多いのも現実だ。そして、ソーシャルメディアと連携したコンテンツマーケティングともなると、その成功事例は格段に減ってくる。

今回はソーシャルメディアの活用とコンテンツマーケティングの実践によって成果を上げているECサイトを4つ(ライスフォース、北欧 暮らしの道具店、FASHION HEADLINE、土屋鞄製造所)ピックアップして、そこから学べることを整理し、ECサイトにおけるコンテンツマーケティングの目指すべき姿を考えていきたい。

*本記事は「Eコマースコンバージョンラボ」からの寄稿記事を一部SMMLabで編集してご紹介しています。

コンテンツマーケティングとは?

コンテンツマーケティングとは良質で顧客のニーズを満たし悩みを解決するコンテンツをサイト内で展開することで、検索エンジン経由での集客効果を高めるマーケティング手法である。従来のPUSH型のマーケティング手法とは一線を画したPULL型の新しい手法であり、その一時の集客を求めるのではなく、その見込み客との中長期に渡るコミュニケーションを実践し、最終的に購買に結びつけることを目的とするものである。コンテンツマーケティングにおいては、サイト内に良質なコンテンツを置くだけでなく、その効果を高める為にソーシャルメディアの拡散性を活用することが一般的である。

<参考>
ECサイトのインバウンドマーケティング元年がやってきた
前編:ECサイトでもインバウンドマーケティングが重要な4つの理由
後編:ECサイトでインバウンドマーケティングで成果を上げる5つのポイント

ライスフォース - メディアの使い分けと目的の明確化

まず最初に紹介する事例は、お米を原材料にした基礎化粧品のブランド、ライスフォースFacebook活用法だ。ソーシャルメディアをフル活用した事例として一時期非常に注目されたため、ご存知の方も多いことだろう。

もともとテレビ通販を主流に商品を販売していたライスフォースは、2007年~2008年頃のテレビ通販最盛期には年間50億円弱を売り上げていた。しかし、時代の流れとともにWebの必要性を感じ始め、2006年にWebでの受注をシステム化。2010年にはFacebookページを開設するに至る。当時はmixiが圧倒的に強い時代だったが、Facebookの将来性を見据えて早い段階での開設に踏み切り、本社のある香川から3名、東京支社から2名、計5名の20代女性メンバーで記事を担当する“ライスフォース5姉妹”を結成。あえてさまざまな部署から担当者を集め、担当の名前付きで投稿を行ってきた。

現在は日本のスキンケア&化粧品業界において、GlossyBox.jp(574,068いいね)、ドクターシーラボ公式ファンページ(408,933いいね)に次ぐ3番目のファン数(74,383いいね)を誇っているが、ここまでファンを獲得できたのには徹底した戦略があったのだ。

まず、外部サイトへ飛ばすプロモーション要素の強い投稿は極力控え、コアターゲットである30代~50代女性に響くコンテンツを投稿するように意識。食や季節に関する日常の投稿で親近感を演出しつつブランドの性格に合った投稿をしていくなど、ソーシャルに最適化されたコミュニケーションを取ることで、ユーザーから高い支持を得てきた。Facebookは商品を購入させるためのものではなく、あくまで自社のECサイトへの送客とブランドイメージ向上のためのツールとして利用してきたのだ。

これによりFacebookユーザーからの認知はもちろん、ファン層のブランドへの愛着をさらに強化することに成功。結果、自社サイトへの訪問ユーザー数、販売件数ともに増加し、この事例はFacebook社から公式に成功ケースとして認められ、2012年秋にはFacebookが選出するベストプラクティスに選ばれた。また、国内のFacebookページ開設に先立って海外向け(英語版)ページの運用を行ったり、日本で初めてFacebook内にショッピングサイトを開設するなど、常に最先端でFacebookを取り入れてきたことも記憶に留めたい。

<参考>
「ソーシャルコマース成功のための3つのポイント」 桜丘製作所 鈴木大也氏 キーパーソンインタビュー

北欧、暮らしの道具店 - ECサイト自体のメディア化

北欧雑貨を販売する“北欧、暮らしの道具店”は、2007年にECサイトをオープンして以来、前年比約170%のペースで成長を続けてきた人気オンラインショップだ。

立ち上げ当初は数百万円だった売上はわずか2年で2億円を超え、Facebookでは5万人近くのファンを獲得(現在は9万5千人ほど)。驚異的な成長を遂げ、今や月間83万のユーザーが訪れるメディアへと進化した。同ショップは、ECサイトを“モノを販売する場”から“雑誌のように読んで楽しめる場”にすべくサイト自体のメディア化を図り、ブログを活用して多数のコンテンツを日々提供している。

サイト上では多くの特集が組まれ、商品が使用されるシチュエーションが丁寧に説明されているのだ。例えば、スタッフが自ら実践している自社商品を使った北欧ライフスタイルの紹介記事や、スタッフの愛用品紹介、暮らしの中に植物を取り入れる方法や、育児中のママに役立つ道具特集、オフィスのリノベーション実践日記など、その多彩なコンテンツ例を挙げるとキリがない。展開されている1つ1つのコンテンツが非常に丁寧に作られており、そこかしこにサイトを訪れる人への気遣いと、商品に対する愛情が感じられるのだ。

また、優れているのは豊富なコンテンツだけでなく、取り扱い商品の説明もしかり。商品が活用されている日常のワンシーンを紹介したり、どのようなパッケージで商品が包まれているのか、どのくらいのサイズか、といったことが詳しく説明されている。現在は月間5,000件前後の受注に対応しながら、月に20~30の商品ページや4本の特集記事、週に2、3本のメルマガ、日々のコラムといったコンテンツを公開し、それに加えて隔月で小冊子も発行している。

FASHION HEADLINE(伊勢丹) - 中立的な情報発信メディアの運営

一方、自社の商品紹介に限らず、中立的な立場から情報発信を行っているのが三越伊勢丹が運営する総合ファッションニュースサイト、FASHION HEADLINEだ。

現場で行われていることをきちんと伝え、それによって売上が減少した百貨店業界や繊維・アパレル業界を少しでも盛り上げたいという想いから、同サイトは2012年12月5日に開設された。当初はECサイトとセットで情報発信していくことも考えられたそうだが、自社だけの情報発信では埋もれてしまう可能性があると判断したため、現在のように繊維・アパレル業界全体まで間口を広げた情報サイトが構築されたのだ。そして伊勢丹のカラーを払拭するという狙いから、ニュースサイト運営などで実績のあるイードと共同出資という形が取られ、より中立性を担保するため、編集長には雑誌やウェブサイトをはじめ、数多くのファッションメディアを手がけてきた野田達哉氏が迎えられた。三越伊勢丹が発信したい情報を出すのではなく、今ニュースとして発信すべき話題は何かを編集長が判断し、PRとは明確に分けた運営を徹底しているサイトと言える。

<参考>
百貨店ECサイトのオムニチャネル化への挑戦 - 店頭依存型の商習慣からの脱却で未来を勝ち取れるか

土屋鞄製造所 - Facebook巧者

株式会社アイ・エム・ジェイが昨年12月に発表した“企業Facebookページ年間ランキング2013”で、有名企業が名を連ねる中で健闘を見せたのが、東京・足立区に本店を構える鞄専門店の土屋鞄製造所Facebookページ)だ。

ファン数は24万人とトップ20のランキング圏外だったが、いいね!の平均数が8,220件と7位にランクイン。8位のコカ・コーラを上回る数字を打ち出した。

1965年にランドセルの製作からスタートした土屋鞄製造所は、創業から50年近く経った現在、全国に10店舗を展開。ECサイトも充実しており、上質な革と飽きのこないデザイン、職人の手仕事によって作られたバッグや革小物の世界観を伝え、多くのファンを集めている。サイトは製品の特徴や使用する革の紹介が美しい写真とともにまとめられ、特集コンテンツではさまざまなシーンでの使い方の提案や、職人へのインタビューなどを豊富に掲載。

そのサイトと連動して作られたFacebookページのウォールには、鞄作りの様子や製品紹介のほか、四季折々のつぶやきが投稿されている。その魅力は、何と言っても写真と文章におけるセンスの良さ。そのクオリティは他の企業Facebookページと比べて群を抜いていると言えるだろう。またその投稿からは、職人が誇りと愛情を持って製品を作る“こだわり”が伝わると評判だ。

ECサイトにおけるコンテンツマーケティングが目指すべき姿とは

ECサイトにおいてコンテンツマーケティングを行う方法は、ここで紹介した手法を筆頭に、細かい違いも含めれば多種存在する。それはそれぞれのECサイトの置かれている状況や、持っている強み弱み、商品の特性やターゲットなどが異なるからだ。そのため、ライスフォースの事例が示すように、まずはそれぞれのECサイトの現状を把握し、ソーシャルメディアやサイトの役割をどのようにしていくかを検討することから始めていく必要がある。

北欧 暮らしの道具店のようにECサイト自体をMedia化する場合は、商品訴求方法自体を大幅に変更し、コンテンツから商品へ対する愛情や、丁寧な消費者目線を徹底的に追求することが重要となってくる。更に継続的なコンテンツの更新のためには商品のラインナップも比較的豊富であることも重要だ。そのためバラエティに富んだ商材を取り扱い、商品自体が楽しいライフスタイルを提案するものであるショップが取りやすい選択となる。またコンテンツの企画力が非常に重要となってくるため、商品を活用するための新しいアイディアがどんどん生まれてくる人材の存在も重要だろう。

FASHION HEADLINEのように自社Media(オウンドメディア)を構築する場合は、お客様のためになるコンテンツを中立的に出していくことがポイントとなる。そのため自社製品のみを取り扱うメー カー系のECサイトではその取り組みは難しいだろう。どちらかというと、バイヤーによるセレクトや商品バリエーションを強みとする流通系のショップが取りやすい選 択となる。また質の高いライターや視野の広い編集長の存在も重要だろう。

土屋鞄製造所のようにFacebookページを起点としたマーケティングを展開する場合は、写真と文章のクオリティが重要となってくる。そのため自社製品をしっかりと丹精込めて作っているメーカー系のECサイトや、写真映えする商品を取り扱っているショップが取りやすい選択となる。また腕の良いカメラマンとコピーライターの存在も重要だろう。

いずれの場合でも手を抜いて楽に成果を出すことは出来ないが、コンテンツマーケティングはリスティングなどの瞬間的に消費される投資と異なり、一度作成したコンテンツは蓄積され、一度関係性を築いた見込み客との繋がりも蓄積される。このことは実店舗で店主と常連客の間で行われていたコミュニケーションのような、中長期にわたる企業と消費者の関係性の構築がオンラインでも可能になってきたことを意味しているのではないだろうか。コンテンツマーケティングで見込み客との関係性を構築することは、オンラインでのマーケティング史上もっとも暖かみのある人間味の溢れる手法といえるかもしれない。

ライター紹介

西澤 優一郎 (Yuichiro Nishizawa)

エンパワーショップ株式会社 代表取締役。Web・ECコンサルタント。1999年、慶應義塾大学大学院を卒業し、アクセンチュア株式会社に入社。伊藤忠テクノソリューションズ株式会社ビジネスコンサルティング本部を経て、04年に株式会社CREVIAを設立し、その間、大手メーカーのグローバルWebガバナンス、Webマーケティング戦略検討に従事。
09年にエンパワーショップ株式会社を設立し、EC業界において、「運営はもっと簡単に行えるべき」の哲学のもと、ユーザーの動向を体系的に評価・分析するEC特化型アクセス解析サービス、業界唯一のECサイト運営に特化したクラウドソーシングサービスの展開に取り組む。12年よりネットショップマスター資格認定講座の講師も務める。

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