創薬開発の候補になりうる新規のチオペプチド化合物を、東京大学大学院農学生命科学研究科の尾仲宏康(おなか ひろやす)特任教授らと富山県立大学、北里大学のグループが放線菌から見つけた。32の原子から構成される環状構造(32員環)やアミノ酸組成などの点で、従来の有効物質とは大きく異なる。合成する遺伝子群も確かめ、ラクタゾールと名付けた。新しい抗生物質などの新薬の開発につながる可能性がある。4月24日付の米科学誌Chemistry & Biologyオンライン版に発表した。

図. ラクタゾール生合成遺伝子群。下はラクタゾールの化学構造

土壌中に住む細菌の一種、放線菌はストレプトマイシンなど多様な抗生物質を作る。昔も今も変わらない、医薬品の宝庫である。研究グループは、ゲノム解析とともに発展したゲノム探索や遺伝子発現の手法で、新規のチオペプチドを放線菌で探した。チオペプチドは硫黄を含み、アミノ酸が連なった大きな環状構造を持ち、医療現場で問題になっている多剤耐性菌などにも効くことから、医薬品として開発が試みられている。

探索の結果、11個のアミノ酸によって構成される新規な32員環のラクタゾールを発見した。アミノ酸組成もユニークで、これまでに知られていない化学構造だった。その合成に関わる遺伝子数は6個であることも確かめた。この数は、従来報告されているチオペプチド生合成遺伝子群に比べて半数程度と少ない。この化合物そのものは抗菌作用を示さなかったが、骨形成に関わる遺伝子発現を阻害する生理活性があった。

研究グループは、合成酵素の遺伝子数が比較的少なく、遺伝子組換えなどの遺伝子改変が容易であることに注目している。実際に、ラクタゾールの合成に関わる遺伝子群発現を増やしたところ、ラクタゾールの生産量を放線菌で約30倍に増大させることに成功した。ラクタゾールを基に多様な誘導体づくりも検討し、新たな医薬品の開発を目指している。

尾仲宏康さんは「ラクタゾールはユニークな新規の構造なので、期待している。生合成の遺伝子が6個と単純なのも特長で、遺伝子操作をしやすい。末永く研究して、新しい活性も視野に、創薬に結びつけたい。無限に誘導体を作れば、創薬の出発点、基盤になる可能性はある」と話している。

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