東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(カブリIPMU)は4月25日、2010年に発見されて通常の30倍もの明るさで輝いたことから注目された超新星「PS1-10afx」のそのメカニズムが、同超新星と地球との間にある銀河を発見したことから、重力レンズによるものであることを解明したと発表した。

成果は、カブリIPMUのロバート・クインビー特任研究員らの研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、4月25日付けで米科学誌「Science」に掲載された。

超新星にも複数の種類がある。その中でIa型と呼ばれるタイプは、爆発の規模がほぼ同じとされ(近年はそれが揺らぐような研究も発表されてはいるが)、ピーク時の明るさもよく揃っていることから「宇宙の標準光源」と呼ばれ、遠方の銀河までの距離などの計測に利用されたりしている。

4台の望遠鏡による継続的な全天サーベイ観測「パンスターズ1(Pan-STARRS1:Panoramic Survey Telescope & Rapid Response System1)」によって2010年に発見されたのが、地球から約90億年という遠方の銀河で見つかった超新星PS1-10afxだ(画像1)。PS1-10afxは色や明るさの変化のパターンなどの特徴は通常のIa型超新星と変わらない超新星だったが、明るさが極端に異なっていたのである。なんと、通常の30倍も明るかったのだ。

その異常な明るさから、まったく新しいタイプの超高輝度超新星だと主張する研究者もいる一方で、クインビー特任研究員らのチームは分光観測結果を調べ、PS1-10afxがやはりIa型であることを示してもいた。その増光のメカニズムに関しては、2013年4月の時点で重力レンズ現象によるものであるとする説を発表しており、今回はその完結編ともいうべき発表となった。

というのも、2013年の時点では最大の謎が1つ残っていたからである。いうまでもなく重力レンズ現象を起こすには、PS1-10afxと地球との間に大型の銀河や銀河団など、何らかの大質量が存在しなければならない(画像2)。それにも関わらず、2013年の発表の時点ではその肝心の重力源が見つかっていなかったのである。その理由として、超新星が現れた「ホスト銀河」と、重力レンズ現象を作り出す手前の「レンズ銀河」は、地球から見るとちょうど一直線上に重なっているため、これまでの観測データではその両銀河を区別することができなかったというわけだ。

画像1(左):。PS1-10afxが出現する前にカナダ-フランス-ハワイ望遠鏡(CFHT)によって撮影された画像。四角の中心部に超新星が現れた。(c) Kavli IPMU/CFHT。画像2(右):重力レンズ効果の模式図

明るく輝いていた超新星が十分に暗くなった後の2013年9月、クインビー特任研究員らのチームは、まだ見つかっていない手前の銀河の探索のため、「Keck-I望遠鏡」の低解像度イメージング分光器を使い、PS1-10afxが現れていた領域で7時間の観測を実施した。Keck-I望遠鏡は、ハワイのマウナケア山頂ですばる望遠鏡の隣で運用されている、米・カリフォルニア天文学研究協会が運用している2基の10m可視光・赤外線望遠鏡の内の1基だ。

そしてこの観測データを分析し、明るい遠方のホスト銀河の光の中から、手前にある銀河の光を分離することに成功したのである(画像3)。ホスト銀河と私たちとの間には、重力レンズ現象を作り出す銀河が確かに存在していることを示す結果が得られたという。

発見されたレンズ銀河は、超新星が出現したホスト銀河と比べ、小さく暗い銀河だった。このため、これまでの観測では周囲の光に隠されて見つけることができなかったと考えられるという。重力レンズ現象でIa型超新星を明るく輝かせる天体の最初の例としてこのような小さなサイズの銀河が見つかったのは予想外の結果だったとする。

画像3。Keck-Iで観測した、PS1-10afxが現れた領域の分光観測結果。ホスト銀河(赤矢印)と手前のレンズ銀河(青矢印)のそれぞれから放射される酸素の輝線が見られる。(c) Kavli IPMU

今回の観測結果から、このような比較的小さく、遠くにある銀河でも、十分大きな増光率の重力レンズ現象を生じることも確認された。宇宙の遠方ほど天体の数が多く、レンズの発生頻度もIa型超新星の発生頻度も高いため、遠方の宇宙で発生した超新星ほど重力レンズ現象で明るさを増して発見されやすくなることが期待されるという。

チリ・パチョン山に建設予定の口径8.4mの可視光・赤外線望遠鏡「LSST(Large Synoptic Survey Telescope:大型シノプティック・サーベイ望遠鏡)」を用いた観測などでは、宇宙の遠方にありそのままでは暗すぎて見つけられないIa型超新星の内、いくつもの超新星が、その手前の銀河の生み出す重力レンズ現象の働きで輝きを増して見つかることが予測されるとする。これまで考えられていたよりも1桁も多く見つかる可能性があるという。

同じ重力レンズ現象でも、今回のように増光するのではなく、1つの超新星が最大4個の像に分かれて観測されることがある。これは、超新星から発した光が宇宙の異なる経路を通過してそれぞれの像を結ぶためだ。カメラのようにきれいに像を結ぶことが少ないのは、重力レンズの重力源は重力的にムラがあるためである。

それぞれの経路の長さの違いから、像が現れる時間にも差が発生するのはいうまでもない。この時間差から、宇宙のサイズを測ることができ、宇宙膨張のモデルの直接的な検証につながるのである。ただし、今回観測された超新星では解像度が足りずに像を分離できなかったという。

しかし将来、PS1-10afxと同様に、重力レンズ現象で輝きを増したIa型超新星が新たに見つかった時に、高解像度の望遠鏡を使って追加観測を行えば、像を分離して観測できるだろうとする。研究チームが築き上げた検出、選別方法を用い、重力レンズ効果で明るく輝く超新星を多数観測することで、近い将来、宇宙膨張の理解がさらに進むことが期待されるとした。