東京医科歯科大学(TMDU)は4月23日、胎生期の造血幹細胞を維持に関与する分子を発見したと発表した。
同成果は、同大 難治疾患研究所 幹細胞制御分野の田賀哲也 教授と信久幾夫 准教授、千葉大学、東京大学、熊本大学らによるもの。詳細は米国学会誌「Molecular and Cellular Biology」のオンライン版MCB ACCEPTに2014年3月24日付けでドラフトが公表され、2014年6月1日号の同誌に掲載される予定だという。
ほ乳類の成体では血液細胞を生み出す素になる造血幹細胞は骨髄に存在していることが知られているが、発生期においては、大動脈を形成する血管内皮細胞の中で血液細胞と血管内皮細胞両方に分化する細胞(hemogenic endothelial cells)から出芽したように見える未分化な血液細胞の塊(血液細胞塊)の中に見ることができる。しかし、この血液細胞塊に含まれる造血幹細胞が、どのように維持され、また血液細胞を産み出していくかについては良く分かっていなかった。
今回、研究グループは、発生中期の大動脈の内腔側に存在する血液細胞塊の構成細胞を、ストローマ細胞との共培養を行うと、胚発生に関与する転写因子の1種である「Sox17」の発現が低下し、顆粒球やマクロファージなどの血液細胞に分化するという研究において、血液細胞塊の構成細胞に転写因子Sox17を強制発現すると、ストローマ細胞上で、浮遊した血液細胞塊が形成されること、ならびにSox17の発現を維持した細胞は、長期間の培養を行っても、多種類の血液細胞を産み出す能力(多分化能)が保持されていることを発見したという。
また、これらの特徴は、転写因子Sox17のDNAへの結合を失わせるような1アミノ酸変異体では起きなくなることも確認されたことから研究グループではSox17の転写活性に依存すると考えたほか、Sox17を導入したことにより得られた血液細胞塊の細胞に対し、Sox17の発現を低下させる操作を行ったところ、顆粒球およびマクロファージなどの分化した血液細胞が産み出されることを確認。これらの結果から、造血幹細胞を含む血液細胞塊の構成細胞において、Sox17の発現量が高い時には多分化能が維持され、発現量が低下すると血液細胞へ分化することが示されたとする。
さらに、Sox17を導入した細胞を放射線照射で造血能を失わせたマウスに移植したところ、長期間に渡って移植した細胞がマウスの中で様々な血液細胞を産み出すことが出来ることも確認したとのことで、これらの結果から、Sox17導入細胞において造血幹細胞の維持が起きていることが示されたとする。
なお、研究グループは今回の研究成果について、大動脈の内腔側に存在する造血幹細胞を含む血液細胞塊を形成する細胞でSox17を導入し発現を維持すると、試験管内でも造血幹細胞を含む細胞塊を構築することが出来たということで重要な発見になるとしており、Sox17を発現していない成体の造血幹細胞において、Sox17を発現すると造血幹細胞の維持が起きるという報告もあることから、生体外で造血幹細胞を効率的に維持する技術開発への可能性が期待されるとコメントしている。