京都大学(京大)と日産化学工業は4月25日、ES細胞やiPS細胞などヒト多能性幹細胞の大量培養技術として、2種類の機能性ポリマーを用いた新たな「三次元培養法(三次元スフェア培養)」の開発に成功したと発表した。
同成果は、京大 物質-細胞統合システム拠点(iCeMS)の中辻憲夫 設立拠点長・再生医科学研究所教授、長谷川光一 講師、同 中辻 教授、尾辻智美 研究員、日産化学の西野泰斗 生物科学研究所グループリーダーらによるもの。詳細は米科学誌「Stem Cell Reports」電子版に掲載された。
ES細胞やiPS細胞などのヒト多能性幹細胞が近年、再生医療や創薬研究などへ活用されることが期待されるようになってきた。しかし、米国FDAなどが要請する厳密な品質管理と安全性検査に対応するためには、均一な品質であることを保証した同一ロット細胞を大量生産して各種検査を使用前に行う必要があるが、従来の培養法は大量生産に不向きで、また最近注目されるようになってきた「浮遊培養法」も細胞塊の大きさのコントロールや撹拌による細胞ダメージなどの問題点があったほか、、培養容器中での細胞/細胞塊の沈降を防ぐためにスピナーフラスコなどを用いた撹拌操作を伴う「三次元浮遊培養法」も検討されているが、ヒト多能性幹細胞が撹拌操作により発生する力学的ストレスに敏感なため、細胞ダメージを考慮すると実用的な大量培養法には適さないことが指摘されていた。
今回、研究グループはこうした課題の解決に向け、「細胞解離酵素を使わない機械的処理による継代法の確立」および「機能性高分子であるメチルセルロース(MC)添加による自発的スフェア融合の減少」を達成したほか、「別の機能性高分子であるジェランガム(GG)添加による撹拌が不要」な「三次元的浮遊培養法」を開発したという。
同培養法では、従来の細胞継代時の細胞解離に使用される酵素処理ではなく、ナイロンメッシュフィルターを用いてヒト多能性幹細胞スフェアを分割し、小さなサイズの均一なスフェアにする継代法を採用。
また、不均一な細胞塊サイズや自発的な細胞死や細胞分化の原因となる細胞塊同士の融合の抑制に向け、機能性高分子であるMCを培養液中に添加したところ、細胞スフェア間の自発的融合が減少し、細胞塊の大きさを均一にすることが可能であることが確認されたとする。
さらに、GGは基本培地に添加することで、培地のハイドロゲル形成や大幅な粘度上昇なしで、スフェアを三次元的浮遊状態に保つことができることから、MCとGGを最適な濃度で培地に加えてスフェア培養を行ったところ、撹拌の不必要な三次元スフェア培養が可能であり、かつ同培養法は多能性幹細胞の特徴的性質を保持した状態で、長期継代維持が可能であることが確認されたとする。
なお研究グループでは、今回開発したシステムは、従来の培養システムでは不可能であった心筋細胞や神経細胞等分化細胞の大量生産に適応可能であることから、実用的な培養機器システムへの適用により日本発の技術で世界的なシェアを獲得できる可能性があるとコメントしている。