サイレックス・テクノロジーは4月23日、都内で会見を開き、スマートフォン/タブレットの普及やIoT/M2Mの拡大などで成長を続ける無線LAN市場に対する製品戦略の説明を行った。
同社は2010年ころに、事業の主軸をそれまでのプリントサーバ事業から、ワイヤレス(無線LAN)をキーワードとした技術製品群への転換を本格化。その結果、2009年度のワイヤレス関連製品売上高は5億円程度であったが、それが2012年度には全体売上高の47%となる19億円にまで成長。2013年度から2015年度までの3カ年の中期経営計画においては、さらなる成長を目指しており、最終年度となる2015年度には全売上高の75%を占めるまでに成長させたいとしている。
同社代表取締役社長の河野剛士氏は、2013年度にデザインインを獲得した無線LANモジュール関連製品群など2014年後半や2015年度の売り上げとして計上される見込みであるほか、新規ビジネスとして成長途上にあるマルチキャストの画像伝送ソリューション「X-5シリーズ」やインタラクティブ画像伝送対応機器「NetDA(Network Display Adaptor)シリーズ」などの成長も期待できることから、「間違いなく(成長軌道)のレールに乗っていくという見通し」としている。
会見する同社代表取締役社長の河野剛士氏。プレゼンはすべて同氏が手に持っているタブレットPCから無線でプロジェクター側に接続されている同社の無線アクセスポイントに飛ばし、そこからプロジェクターに出力する形で行われた |
無線LANというと、コンシューマ(ホーム)ユースやホットスポットユースという印象が強いが、同社が注力するのは、それとは一線を画す、"接続が切れると困る"という産業系アプリケーション分野への無線ソリューションの提供である。「サイレックスは"切れない"ということにこだわり、ニッチナンバー1」(同)を目指すとし、具体的には医療機器やセキュリティ関連、産業機器などにおける無線化などでのデザインインが徐々に国内外で進みつつあるとするほか、近年は教育関連における生徒や先生が使うタブレットPCとインタラクティブボード/テレビなどを無線で接続したいというニーズに対応したソリューション展開なども図っている。
こうした取り組みとして、2014年度は合計13の新製品を展開していく計画であるとする。その内、無線LANモジュール系が4製品で、最終製品的なBox系が7製品とのことで、2014年の7-9月期および10-12月期に集中して展開を図っていくとし、「When it Absolutely Must Connect "どうしてもつなげたい" そのときに」のタグラインの下、サイレックスに頼めば必ず何とかしてくれる、というような流れを生み出したいとした。
無線ネットワークの接続が突如途切れ、親機、子機などなどの電源の再起動や設定の確認などを繰り返すという経験のある人も多いだろう。そういった意味では切れない無線ネットワークはコンシューマのニーズもあると思うが、同社としてはあくまで産業分野に注力していくとする |
具体的や製品戦略として同社は「IoE(Internet of Everything)」と「AMC(Absolutely Must Connect)」の2つを掲げている。昨今流行のIoT(Internet of Things)ではなくIoE、つまり「モノ(Thing)」ではなく「あらゆるモノ(Everything)」ということについて、同社製品戦略室室長の三浦暢彦氏は、「IoTはどちらかというとセンサ寄りのイメージ。我々としては、ヒトとヒト、ヒトとモノ、モノとモノなどをつなげ、そこから新たなヒト同士のつながりを生み出し、無線ネットワークの需要を生み出そうというパラダイムシフトを踏まえてIoEを標ぼうしている」と表現。そうしたIoEの実現に向けた技術がAMCということとなる。
そもそも無線は接続が切れやすいところがある。しかし、それでは困る分野もあるわけで、そうした分野に"切れない"、もしくは例え通信が切断した場合でも、「切れた状態をほとんど見えない状態にして、従来のサービスを維持できることを見せる」という無線ソリューションを提供することで、これまで無線が使えなかった分野での無線活用を促そうというのが同社のアプローチだ。
同社は「AV Connectivity」、「Device Connectivity」、「Wirelesss Infra」、「Embedded Wireless」の4つの製品カテゴリで無線ソリューションビジネスを展開しているが、そのいずれもがこのアプローチをとっている。2014年度の戦略として「AV Connectivity」のキーワードは「HDMI対応」と「IEEE 802.11ac対応」だという。主に屋内外のデジタルサイネージを対象としたカテゴリだが、この1-2年で商業施設や店舗内、美容サロンなどにおける小規模サイネージの需要が高まってきており、そうした分野に向け、「X-5シリーズ」の新製品としてHDMIとmicroSDスロットを搭載した「X-5HM」の提供を2014年9月より行う計画であるとする。
従来のX-5はDVIのインタフェースであったが、HDMIへのニーズが強いことを受けて開発が進められているとのことで、従来のクラウドサーバからコンテンツをダウンロードして利用する方法に加え、ローカルでの利用についても機能強化が図られるほか、画面分割によるコンテンツ表示なども可能になる予定だという。
HDMIへの対応が施された「X-5HM」。従来のX-5までは新製品のたびに数字があがってきたが、X-5以降はその名称自体をブランド化する方針に転換。今回の製品もX-5の派生品という形で開発されたという |
2つ目のカテゴリである「Device Connectivity」は、同社の独自技術である「USB Virtual Link Technology」のユーザーが活用する土台を強化していく方針。同技術はUSBインタフェースを仮想化するもので、使い方としては無線LANルータの背後にUSBコネクタが付いているものが近年多数市場に出回っているが、それを思い浮かべていただければ良い。この技術のさらなる産業機器への展開の加速として実施されるのが、カスタマのアプリと連携して活用してもらうSDKの無償提供化だ。2014年5月より実施されるもので、これによりカスタマは、よりUSBを活用したネットワーク対応の産業機器の展開を行いやすくなるという。
また教育用途向けNetDA「SX-ND-4350WAN」のグローバル展開も2014年7月より進めるとしており、使い勝手の向上を図るため管理アプリのユーザーインタフェースの改良なども同時に実施するとしている。
3つ目の「Wirelesss Infra」カテゴリでは、アクセスポイントから別のアクセルポイントへの切り替えタイミングを加速させる802.11rへの対応を加速させる。すでに同規格はiOS6以降のiOS搭載端末(iPhone4s/第3世代iPad以降)がサポートしているが、同社の技術を活用することで産業分野でも、そうした高速切り替えを実現できるようになるとする。
ちなみにローミング速度は、従来500~3000ms程度を必要としていたが、同規格への対応により22msでローミングを終えることが可能になるとのことで、まず5月にアクセスポイント(親機)側の製品で対応を図り、その後、2014年下期に子機や管理ツールなどへの対応を図る計画だという。
また、接続が切れている状態を短くすることを目的に、接続状況などを遠隔監視できるソリューション「Wireless Frame Capture Device(仮称)」の提供も2014年後半に提供する計画だ。これは、無線搭載機器が遠隔地に置かれている場合であっても、その状況を監視することで、もし切断異常などが発生した場合、有線LANやVPN経由で遠隔地からの復帰などを実現しようというもの。これにより、サービスエンジニアがその場に行かないと復旧できない、という割合を減らすことが可能となり、無線が使えない状況という時間を削減できるようになる。
そして4つ目の「Embedded Wireless」カテゴリはPCIeモジュールとして2013年に発表済みのIEEE802.11ac対応製品を5月に出荷開始するほか、IoE向けモジュールの提供も計画されている。また、ほか、産業機器対応無線LANモジュールとして、IEEE802.11a/b/g/n 2×2 MIMOに対応したPCIeモジュール「SX-PCEAN2i(産業温度対応)/2c(商業温度対応)」も8~9月にかけて提供する計画だとする。
いずれのカテゴリに対してもAMCの想いをカスタマの付加価値を高めるものとして活用してもらうことで、同社としても「ビジネスの存在意義を高めていければ」(同)としている。
なお、医療機器分野への導入は米国が先行しているが、日本でも興味を示す医療従事者などが増えてきており、徐々にではあるが、いくつかの医療機器メーカーなどと無線LANの活用を進めつつあるという。また、海外では輸送機械などの運行管理などを含めたテレマティス分野での活用に注目が集まりつつあり、そうした車両における高温/低温や、衝撃・振動が常時存在するといった過酷な環境においても、ノウハウを積み重ねていくことで、"切れない"無線ネットワークの実現を図っていくと、新規分野への積極的な挑戦も行っていくことを強調していた。