富士通研究所の佐相秀幸 代表取締役社長

富士通研究所は4月15日、2014年の研究開発戦略説明会を開催し、今後の研究開発戦略の方針ならびに2013年度の成果報告を行った。

現在、地球上にはさまざまな問題が存在しているが、そうした問題をどうやってICTで解決するかがICT業界に携わる企業の課題だと富士通研の佐相秀幸 代表取締役社長は語る。「社会と人に役立つICTを考え、実践していくことが研究所の大きなテーマ」(同)とのことで、ICT化による産業革命以降の大きな流れが生み出され、「新たな産業革命が起きている」と表現する。

現在、地球上にはさまざまな問題が存在しているが、そうした問題をどうやってICTで解決するかがICT業界に携わる企業の課題だと富士通研の佐相秀幸 代表取締役社長は語る。「社会と人に役立つICTを考え、実践していくことが研究所の大きなテーマ」(同)とのことで、ICT化による産業革命以降の大きな流れが生み出され、「新たな産業革命が起きている」と表現する。

そうした環境の中で富士通研究所が掲げるのが人を中心とした「ヒューマンセントリック・インテリジェントソサエティ」という考え方だ。

これは、人・情報・インフラが組み合わさることが、イノベーションを生み出すアプローチとなる、という考え方で、「富士通としてどのように人をつなげて支援を行い、顧客価値を高めていくか」、「情報価値を高めていくか」、「どうやっていろいろなものをつなげていくか」といったイノベーションを生み出していく3つの課題をベースに研究を行っているとする。

富士通グループの現在の研究開発スキームは、技術・ビジネスの方向性を明確にし、技術戦略を策定・推進するというもので、富士通の事業部や関係会社から投資を受けて、それを出資者に対し還元していくことが基本的な姿勢となる。どういった内容を研究するのかということについては、富士通の山本社長が委員長となっている方向性を示す技術戦略委員会と、より詳細かつ現実的な話を議論する技術戦略タスクフォースで基本的に決定され、それと並行してオープンイノベーションとして、研究機関や大学などと長期的な視野を持った研究が進められている。

先端技術を用いて人・情報・インフラの結び付けを進めることで、イノベーションを生み出そうというのが現在の富士通研究所の姿となる

現在の研究テーマに対する比率は、昨年までの「事業戦略テーマ」「全社骨太テーマ」「シーズ指向テーマ」といったものから、事業化計画が明確で、事業に直結する研究である「事業化研究」、新事業創出、事業拡大、競争力強化に向けた研究分野である「先行研究」、そして研究所の見識で取り組む革新的技術の研究である「シーズ研究」に分け直され、その資源配分も約30%、50%、20%と振り分け直されている。

また、研究体制として、富士通研究所では「ユビキタス」「ソーシャル」「ICT」「ものづくり」の4つのイノベーション領域での研究を進めているとする。

ユビキタスイノベーションでは、フロント起点での基幹連携による新サービス創造することを目的に、ウェラブルのようなヒューマンインタフェースや、人と人、人と環境、モノとモノをつなぐIoTといったつなげるユビキタス、そして五感を活用したメディア処理などの提供を目指した取り組みが行われている。

ユビキタスイノベーションの概要

ソーシャルイノベーションでは、新ICTビジネス領域の開拓を目指し、2013年12月に組織を改革。環境・エネルギーやモビリティなどの研究推進室を1つにまとめ、データの連携などを加速できる体制を構築したとする。

ソーシャルイノベーションの概要

ICTイノベーションでは、膨大な量のデータを扱えるようになってきたことを受けて、そうしたいわゆるビッグデータを自由自在に処理することを目指した「超スケール」「プロアクティブ」「ソフトウェア制御化」といった3つのテーマの下、ソフトウェアを重視したプラットフォームなどの開発が進められている。

ICTイノベーションの概要

そしてものづくりイノベーションでは、先端技術をフル活用したものづくり基盤の構築ということで、例えば、ロボットを用いた製造現場にICTを取り入れる試みとして、単に労役だけでなく、上流の設計データからICTをつないでロボットを制御し、製造の自動化、省力化、コストダウンを実現し、短納期、高品質などを実現しようという試みを進めているとするほか、量子ドットレーザーの高性能化により、次世代の高速通信の実現を目指すなど、「基盤技術をきっちりと提供していく体制を整えて研究開発を進めていく」とした。

ものづくりイノベーションの概要

なお、佐相社長は、「富士通研究御jは、先行技術で富士通の成長に貢献することが目標だが、技術開発だけでなく、新たな価値も提供していくことで、富士通を牽引していきたい」と語っており、先端技術をベースに富士通グループ全体の競争に貢献していければ、と抱負を語った。

研究開発のロードマップ

2013年度の主要研究成果一覧

2013年度の研究成果の1つ。触感が得られるタッチパネル。触れると超音波により、さまざまな質感を感じることができる仕組みとなっている

2013年度の研究成果の1つ。ヒトの視線を取得できる小型センサ。赤外線カメラとコンピュータビジョンを用いて、人間の目の特徴点を抽出。その視線がどこに向いているかを調べることを可能にするソリューション。機器は小型で、無線でデータのやり取りをしているかと思ったが、USB経由で電源供給とデータの送受信をPCと行い、PC側で画像処理を行っているとのこと。顔認識などはプライバシーの問題が生じやすいが、そうした点も、ヒューマンセントリックという言葉を掲げる以上、やがて解決せねばならない問題として出てくることとなる。ちなみに2014年度中のビジネス化を目指すという

2013年度の研究成果2つ。左は回路技術の工夫などにより、基地局向け装置の送信アンプ部で生じる余分な電力(熱に変換されてしまう部分)を従来システム20Wのところを8Wに低減したというもの。ただし、システムトータルとしてはデジタル信号処理部としてハイエンドなFPGAを使用したりと、あまり下がっておらず、現行と同等程度という話であった。しかし、排熱が減ることで、冷却装置の簡素化などは可能になるため、プロセスの微細化などによるFPGA側の低消費電力化も進めば、メンテナンスコストなども含め、トータルのシステムコストとしての低減が見込めることとなる。右はシリコンで80GHz帯に対応したデバイスと、それを用いたアンテナ技術による3Gbpsの通信を実現したスモールセル向けソリューション。近年の日本は半導体技術、特にロジックプロセスを軽視する風潮があるが、こうした高周波分野はロジックプロセスと言いつつも、アナログ半導体的な職人芸が求められる領域でもあり、付加価値をつけやすい分野である。とはいえ、スモールセル向けビジネスだけでいくつデバイスが必要か、というと、300mmウェハを何枚も流す必要性はない程度であり、そのためにマスクを起こして、というビジネスはその他の応用展開が無ければ採算がとれるのか? という問題が出てくる。そういった意味で可能性が高いのは自動車の77GHzや79GHz帯が用いられる衝突防止レーダーであろう。また、もともと、富士通の半導体製造を担っていた三重工場では電子ビーム(EB)を用いて、マスクを用いずに直接ウェハに描画を行う装置などを導入して、その実用化などの模索も行われており、むしろ今、こういった小ロットのデバイスに対して、そういったことが自前でできれば、製品出荷などのタイミングコントロールなども行いやすいはずだと思われるが、いかんせん、現在の富士通は自社ファブの比率を減らすファブライトから、ファブを持たないファブレスへと舵を切っており、なかなかそういった展開は難しい状況にある