農業生物資源研究所(生物研)は4月15日、2014年2月19日に国際宇宙ステーション(ISS)の日本実験棟「きぼう」にて若田宇宙飛行士によって実施されたネムリユスリカ蘇生実験の結果、微小重力下においても再水和後に蘇生し、さなぎや成虫に変態できることが確認されたと発表した。

同成果は、宇宙航空研究開発機構(JAXA)とロシア連邦宇宙局との水棲生物共同研究合意に基づき、JAXAとロシア科学アカデミー生物医学問題研究所(IBMP)の共同研究(研究プロジェクト名:Space Midge)として計画されたもので、IBMPに生物研が生物材料を供給し研究協力を行うことで実現したという。

ネムリユスリカは、ユスリカの1種で、幼虫は、俗にアカムシと呼ばれ水の中の有機物などを食べて成長することが知られている。また、幼虫はカラカラに乾燥(含水量3%)しても、脱水時にトレハロース(糖)を爆発的に合成し、水の代わりにタンパク質などの生体成分や細胞膜を乾燥ストレスから保護することで、水が戻ってくると1時間以内で発育を再開できるといった昆虫の中で唯一、極限的な乾燥耐性を持つことも知られている。

今回の実験は、宇宙環境でも乾燥に耐えるか、微小重力環境で遺伝子変化を起こさないかの調査を目的として実施された。

具体的には、2月19日に乾燥幼虫100個体に対し注水(再水和)し、その3時間後にネムリユスリカ乾燥幼虫が蘇生する様子が確認されたという。ISS船内の平均気温は約23℃、幼虫の至適温度よりもやや低いものの、ほとんどの幼虫が再水和3時間後に微小重力下においても吸水を終え、活動を始めたとする。

また、3月6日に100個体のうち7個体がさなぎ化し、その中の1個体が成虫に羽化したことも確認。研究グループでは、微小重力下において、乾燥状態から蘇生した昆虫の変態を確認したのは今回の実験が初めてだとする。

なお、この結果を受けて研究グループは、今後は、微小重力下での幼虫の行動、例えば、営巣行動や餌の探索行動、成虫の交尾行動(飛翔行動)などの行動観察実験の実施が可能となるとするほか、将来的には、ISSで実施さ れる、宇宙環境ストレスへの影響を解析するさまざまな実験の材料として利用されることが期待できるようになるとしている。

ネムリユスリカ乾燥幼虫が入ったMidge Chamber 内に注水後の様子。蘇生を開始したネムリユスリカ幼虫が観察できる。中央に気泡が見える