東京大学は4月14日、自在に切り貼りできる新しいナノ構造体の開拓に成功したと発表した。

同成果は、同大大学院 工学系研究科 化学生命工学専攻の相田卓三教授(理化学研究所 創発物性科学研究センター 副センター長)、吹野耕大学術支援専門職員らによるもの。

医薬品のような複雑な有機分子を構築するには、共有結合(原子同士を結びつけて分子の骨格を形成する強い化学結合)を自在に切り貼りできる技術が必須となる。しかし、共有結合とは異なる"分子同士の弱い接着(非共有結合性相互作用)"を利用するナノスケールの構造体(ナノ構造体)の合成では、一旦組み上がった構造体をその部分構造に解体したり、解体された同種、異種の部分構造同士を貼り合わせたりする"ナノスケールの切り貼り"に関する報告例はなかった。ナノ構造の形成に使われている複数の接着様式のうち、特定の様式のみを弱めたり、強めたりするという著しく困難な要求を満たす必要があるからだという。特別な対策を施さなければ、ナノ構造は、それを構成するもっとも小さな単位である分子にまでバラバラに解体してしまう。

今回の自在に切り貼りできる新しいナノ構造体は特別なナノチューブである。このナノチューブから電子を奪う(酸化する)と、ナノチューブはその構成要素の1つであるリングに切断される。一方、得られたリングに電子を再注入(還元)すると、無数のリングが規則正しく重なりあって自発的にチューブを再構成する。リングは正電荷を帯びており、負電荷を帯びた別の物質の表面に貼り付く性質を有する。今回の研究によって示された"ナノスケールの切り貼り"という物質合成の新たな戦略は、より複雑、高機能なナノ構造体に関する科学技術の進歩と次世代エレクトロニクス分野での応用に寄与すると期待されるとコメントしている。

電子の出し入れによって、その構成モジュールを切り貼りできるナノ構造体のイメージ。フェロセンを含むナノチューブ構造(上側)から電子を奪う(フェロセンの酸化)とその構成要素であるリング(下側)に切断され、電子を再注入する(フェロセンの還元)と、無数のリングが規則正しく重なりあって自発的にナノチューブを再構成する