原子核実験で新しい成果が出た。中性子が非常に多い原子核で、中性子が雲のように染み出す「中性子ハロー」などの特異構造を、東京工業大学大学院理工学研究科の中村隆司教授らが理化学研究所(埼玉県和光市)の大型加速器、RIビームファクトリー(RIBF)の実験で確かめた。中性子過剰な原子核や、宇宙での元素形成の研究を発展させる成果として注目される。4月7日付の米物理学会誌フィジカル・レビュー・レターズ電子版に発表した。
研究グループはRIBFで、中性子数(21個)が陽子数(10個)の2倍以上もあるネオン31を大量に生成した。ネオン31は0.003秒でほかの元素に変わるが、その間に、構造を詳しく解析した。実験は、原子核を構成する陽子や中性子の間に働く、核力とクーロン力という異なる力に分けて理解できるように、工夫した。ビームを当てる標的に鉛と炭素を使い、結果を比較した。ネオン31の原子核は、ネオン30のコンパクトで硬い芯原子核の周りに、薄く雲のように広がった1個の中性子が取り巻く「中性子ハロー」を持っていた。
原子核の形は、通常の球形ではなく、ラグビーボールのようなレモン形に変形していた。さらに、中性子が20個とその前後は「魔法数」と呼ばれて、球形になって安定するという原子核理論の定説を覆し、魔法数が消失する現象も見つけた。これら原子核の「強い変形」と「魔法数の消失」が「中性子ハロー」の形成に重要な役割を果たしていることも明らかにした。こうして、3つの特異構造を統一的に捉え、その関連を解明した。
中村教授は「強力な理研の加速器のRIBFで、1秒間に5個のネオン31が生成できた。この世界高性能の装置の威力があって、初めて解明できた。ネオン31は実験的に中性子ハロー構造が確認されている最も重い原子核だが、今回確認された特異構造は、より重い原子核にも普遍的に現れるだろう。宇宙では、超新星の爆発など中性子が過剰に発生する際、中性子過剰の原子核が一瞬できて、その後に、われわれの体を構成する元素が形成されたと考えられている。その宇宙での元素形成を探る新しい手がかりにもなる」と話している。