Intersilは4月10日、都内で会見を開き、同社の現在のビジネスの状況などの説明を行った。
同社Senior Vice President, Mobile Power ProductsのAndrew Cowell氏は、現在のIntersilについて、2013年3月に新たなCEOが就任し、戦略の見直しを実施した結果、さまざまな分野に進出する方針から、パワーマネジメント分野を中核とした高性能アナログ半導体ベンダへと変化を遂げつつあるとし、「2013年は"Redefining(再定義)"の年であったが、2014年には注力市場や製品構成の"Rebuilding(再構築)"の年となり、そして2015年を"Returning to long-term growth(長期的な成長への回帰)"の年とする」という方向性を示した。
事業の戦略としては、「モバイル」「インフラ/産業機器」の2分野を軸に、「航空宇宙」や「自動車」などの信頼性が求められる分野への製品提供を強化していくとする。
2013年3月に就任した新CEOが最初に行ったのが、自社のポートフォリオの棚卸とコアコンピタンスの再定義。これにより、同社が何を武器とする半導体企業であるかが、明確化され、2014年はそれに基づいたビジネス戦略を実際に構築していく年となっている |
中でもモバイル分野に対しては、小型化と高集積化/高効率化が求められており、DC/DCコンバータやパワーマネジメントIC(PMIC)に関する技術が評価されているほか、ディスプレイ/バックライトディスプレイや光センサなども日本企業含めて進めており、多くスマートフォンやタブレットでの採用が進んでいるという。
そんな同社が同日発表したのがモバイル機器向け昇降圧/昇圧スイッチング・レギュレータ「ISL911xx」ファミリだ。同ファミリは昇降圧スイッチング・レギュレータの「ISL91110/91108」および昇圧スイッチング・レギュレータ「ISL91117」で構成されており、独自アーキテクチャの採用により、最大96%の効率を提供し、バッテリ駆動時間を最大25%延長することを可能とするほか、システムの発熱を抑制できる。
すでに提供を開始しており、Samsung ElectronicsのGalaxy Note 3などにも採用されているという。
一方のインフラ/産業機器市場では電力密度の向上と使いやすさの向上を目指した製品開発が進められており、そうした取り組みの1つがデジタル電源ソリューションとなる。
デジタル電源のメリットとして、入力電圧、出力電圧、入力電流、出力電流、温度などを監視することができる点などが挙げられる。「我々は10年ほど前に第1世代のデジタル電源ソリューションを投入して以降、使いやすさや性能の向上に向けた工夫を取り入れてきた。そして現在の第4世代では、補償回路を不要にしつつ、アナログ電源よりも高い効率を実現できるようになった」とのことで、こちらもデジタル電源モジュール「ISL8270M/71M」を併せて発表した。
同モジュールはサーバや通信基地局向け機器などのインフラ機器向けに開発されたもので、第4世代デジタル電源コントローラをベースに25A/33Aアプリケーションに対応する。独自のコントロール変調技術「ChargeMode」を用いることで補償回路を不要にしつつ、全ライン、負荷、温度範囲で±1.0% Voutの精度を提供するほか、過温度保護機能、フォルト・ロギング機能などを搭載している。
また、パッケージ技術として、銅リードフレーム上に直接MOSFETなどの電源部品を配置する独自技術を採用。これにより、プリント基板電源プレーンがモジュール・ヒートシンクとして機能し、電源部品からプリント基板まで低い熱抵抗を実現できるとする。
さらに、同社のグラフィカル・ユーザー・インタフェース(GUI)「PowerNavigator」の最新版(バージョン5.1)に対応しており、デバイスアイコンを選択し、UI上に配置していき、そこに数値を入力し、立ち上がり時間などを設定するだけでデジタル電源を構築することが可能となる。
各市場に対する戦略については、同社日本法人インターシルの代表取締役社長である和島正幸氏が説明。「本社としてはモバイルとインフラがメインと言っているが、日本も基本的には同じだが、地域特有の市場として自動車があるほか、ユニークな分野として航空宇宙がある」とした。
インフラ関連については、「データセンターや基地局ではより高い電力効率、熱効率、省サイズが求められており、それを短期間で実現しないとグローバルでの競争に勝ち残れない状況となっている。デジタル電源は、開発サイクルを早めることができるため、そうしたニーズにマッチしている」とした。また、コンシューマは「スマートフォン/タブレットは新興国における需要が続くが、日本国内ではプレーヤ数が減っている」とするが、「パネルメーカーとしては強力なメーカーが2社存在しており、そうした企業との連携を強化していく」とした。
さらに自動車に関してはインフォテイメント分野への注力として、「既存のプラットフォームへのアプローチに加え、HUD(ヘッドアップディスプレイ)や大型モニタを採用した次世代ナビシステムなど、将来採用されるであろう技術では高輝度、高速応答性、高信頼性などが求められており、それらをカバーした製品を中心に提供していく」とした。
和島社長がユニークといった航空宇宙分野だが、「元々、Intersilの起源は航空宇宙産業向けの通信機器ベンダで、50年以上の関わりがある。今、地球を回っている人工衛星のほとんどに何らかの製品が搭載されている」とし、前工程、後工程のすべてを自社設計、自社製造で行うことで、高信頼度を実現しているとするほか、「宇宙での放射線の問題は重要で、我々は社内に放射線をデバイスに長期間当てることが可能な施設を有している稀有な半導体ベンダであり、放射線量がどの程度の時に素子がどういった挙動になるのか、故障はどうやって発生していくのかといった多くのノウハウを有している」と、自社の強みを強調。「日本でも航空宇宙産業に打って出ようという企業が多数出てこようとしている。その波に乗り遅れないようにしていきたい」とした。
とはいえ、一般的な感想としては、宇宙用デバイスは高い、というイメージが強い。日本が産業としようとしているのは超小型衛星であったり、小型衛星であったりと、比較的予算をかけずに済ませよう、という衛星の領域である。そこで1つ数十万、数百万円といったデバイスは到底受け入れられない。その点を和島氏に聞いたところ、「同じデバイスとして高放射線耐性を有しているものと、そうではないものの2つをラインアップしており、数年間の運用寿命で壊れてしまっても、という場合は耐性なしの方を選んでもらえればかなりコストを抑えることができるようになる。また、どの程度であれば、放射線がどの程度降り注ぐか、といった知見なども我々は有しており、そういったノウハウもセットで提供していくことで、そうした高耐性ではないデバイスであっても、運用寿命をまっとうできるだけの性能を発揮させる手助けができると思っている」とした。
同社は前CEOの世代まで、常に買収を繰り返し、さまざまな技術、人材などを自社に取り入れることで成長してきた。しかし、新たなCEOの下、その方針から、従来のコアコンピタンスであったパワーマネジメントを軸に据えたビジネスに回帰した。ビジネス規模の縮小、というイメージを受けるが、売り上げも2013年第1四半期に底を打ち、2013年第3四半期から前年同期比では成長に転じたという。また、特別損失などを除いたoperating margin(営業利益率)は、2012年はだいたい各四半期10%程度であったものが、こちらも2013年第3四半期から20%程度に上昇してきており、売り上げはほぼほぼフラットな伸びながら、収益性が改善しており、健全性は増した形だ。これまでの買収と売却を繰り返してきた歴史をリセットし、資本をコアコンピタンスに集中するビジネス路線をとった新たなIntersil。Cowell氏は述べた"Redefining"、"Rebuilding"、"Returning to long-term growth"の3つの"Re"からは、そうした新たなIntersilへと変貌を遂げるという強いメッセージを感じることができた。