理化学研究所(理研)は4月14日、既存のアルツハイマー病モデルマウスよりも、アルツハイマー病患者脳内のアミロイドの蓄積を忠実に表わす、次世代型アルツハイマー病モデルマウスの開発に成功したと発表した。

同成果は、理研脳科学総合研究センター 神経蛋白制御研究チームの西道隆臣シニアチームリーダー、斉藤貴志副チームリーダーらによるもの。詳細は、米国の科学雑誌「Nature Neuroscience」5月号に掲載されるに先立ち、オンライン版に掲載された。

疾患研究には多くの病態の再現モデル動物が開発されており、アルツハイマー病では、アミロイドβペプチド(Aβ)が凝集し、アミロイド斑となって脳内に過剰に蓄積することが病気の発症の引き金と考えられており、これまでにAβの前駆体であるアミロイド前駆体タンパク質(APP)の遺伝子変異が同定されているため、APPを非生理的に過剰に発現させたAPP過剰発現マウスが、第1世代アルツハイマー病モデルマウスとして主に使用されてきた。しかし、過剰発現したAPPの記憶障害などの非生理的な効果が強く、また脳内のアミロイドの蓄積もアルツハイマー病患者との類似性が乏しいため、ヒトのアルツハイマー病のモデルとして適切だとは言い切れなかった。

今回、研究グループは、APPの過剰発現法ではなく、遺伝子を置き換える「ノックイン技法」を用いてモデルマウスの開発を試み、「第2世代APPマウス(APPノックインマウス)」の創出に成功したという。

次世代型アルツハイマー病モデルマウス作製のためのコンセプト

既存のAPP過剰発現マウスは、12カ月齢からアミロイド斑の形成が認められていたが、APPを過剰発現させていない第2世代APPマウスでは、APPの発現量は野生型と同等ながら、アミロイド斑の形成は6カ月齢から確認されたほか、第2世代APPマウス脳内では、加齢を重ねるほどアミロイド斑が形成され、蓄積するAβ種も患者と同様であることが確認されたという。

また、アミロイド斑の形成に伴い、神経炎症やシナプスの脱落も認められ、18カ月齢から記憶学習能の低下が認められたとする。

第2世代APPマウスの脳のアミロイド斑、神経炎症および学習能。(A) アミロイド斑は、患者と類似していることが確認された。(B) 神経炎症(青:Aβ、赤:ミクログリア、緑:アストロサイト)を示した。(C) 18カ月齢から学習能が低下していることが示された

さらに研究グループは、第2世代APPマウスに、家族性アルツハイマー病変異の1つでありAβが蓄積しやすくなるArctic変異を組み込んだ第3世代APPマウスの創出にも成功したという。具体的には、2カ月齢からアミロイド斑の形成を示し、18カ月齢の第2世代APPマウスよりも激しい神経炎症を示したとするほか、記憶学習能の低下も6カ月齢から認められ、第3世代APPマウスは、研究時間を短縮させることができることが示された。これにより、アミロイド斑の形成初期を標的とした実験には第2世代APPマウスを、アミロイド斑形成後の脳内病態変化を標的とした実験には第3世代APPマウスを、などという形で実験目的によって、第2世代、第3世代APPマウスを使い分けることも可能になると研究グループでは説明している。

第3世代APPマウス脳のアミロイド斑、神経炎症および学習能。(A) 2カ月齢からアミロイド斑の蓄積を示した。(B) 第2世代APPマウスよりも激しい神経炎症(青:Aβ、赤:ミクログリア、緑:アストロサイト)を示した。(C) 6カ月齢から学習能が低下していることが確認された

なお研究グループでは、今回開発した第2世代や第3 世代APPマウスを用いて研究を進めていくことで、今後、従来のAPP過剰発現マウスにより得られた結果を一部見直す必要性が生じる可能性がでてくるとするほか、いまだに解明されていないアルツハイマー病の慢性の炎症性病態の分子メカニズムの解明に向けた基礎研究を推し進めることが可能になり、アルツハイマー病の予防・治療のための創薬研究のみならず、早期診断法開発などの臨床応用のための研究に資する、新たな世界基準となる重要な研究ツールとして寄与することが期待できるようになるとコメントしている。