国立がん研究センターは4月11日、がん抑制遺伝子p53の不活化によって誘導される分子「TSPAN2(テトラスパニン2)」が肺腺がんの悪性化プロセスにかかわっていることを同定し、p53の変異によって不活化した肺腺がん細胞では、TSPAN2とがん幹細胞マーカーCD44が相互作用して細胞を酸化ダメージから保護し、異常な浸潤・転移能を獲得することを明らかにしたと発表した。
同成果は、同研究所 難治がん研究分野の江成政人ユニット長らによるもの。詳細は米学術誌「Cell Reports」電子版に掲載された。
医療技術が進歩した現代でも肺がんは現在でも死亡率が高く、かつ治りにくいがん(難治がん)の1つとされている。新たな治療法などの開発のためには、肺がんの発生機序の解析などが必要となるが、その発がんプロセスは複雑で、未だ不明な点も多く残されている。
今回、研究グループが着目したがん抑制遺伝子p53は、遺伝子損傷やがん遺伝子の活性化などを起こした細胞の増殖を停止・修復させたり、あるいは死滅させたりする、いわばがん抑制における司令塔の役割を担っている遺伝子で、その変異による不活化が肺腺がんの進展に関与することは報告されていたものの、その分子機構は不明のままであった。
今回の研究では、肺腺がんの悪性化プロセスを模倣する細胞実験系を確立し、悪性化にかかわる遺伝子群の探索を実施。その結果、p53変異によって誘導される悪性化促進因子として、TSPAN2を同定することに成功したという。
また、肺がん患者のデータベース解析より、p53変異を有する症例ではTSPAN2の発現が高いこと、TSPAN2高発現群では低発現群に比べて予後不良であることが確認されたという。
さらに、TSPAN2がどのようなメカニズムによって浸潤・転移を促進するかを調べたところ、過剰発現したTSPAN2は、がん幹細胞マーカーとして知られるCD44と協調的に働き、細胞内の活性酸素種(ROS)による酸化ストレスを抑えることが判明したという。
TSPAN2が関与する肺腺がん悪性化の分子機構。p53変異による不活化は、肺腺がん細胞の浸潤・転移を促進するTSPAN2の発現を高める。過剰発現したTSPAN2は、がん幹細胞マーカーであるCD44と結合し、細胞内の活性酸素種(ROS)の産生を低下させる。これにより、肺腺がん細胞は酸化ストレスから保護され、異常な浸潤・転移能を獲得すると考えられる |
なお研究グループでは、がんの本態解明に基づく新規治療法の開発とそれによるがん死亡率の低下は、研究所の使命であり、今後も難治がんの本態解明に取り組んでいくとコメントしている。