東京大学(東大)は4月9日、海洋細菌(Nonlabens marinus S1-08T)から光エネルギーを用いて塩化物イオンを細胞内に運び入れる新しい種類のポンプ(ロドプシン)「CIR(Cl- pumping Rhodopsin:Cl-を運ぶロドプシン)」を発見したと発表した。

同成果は、同大大気海洋研究所の吉澤晋 特任研究員、岩崎渉 准教授、木暮一啓 教授、宮崎大学の小椋義俊 助教、 林哲也教授、マサチューセッツ工科大学のEdward F. DeLong教授らによるもの。詳細は「米国科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America:PNAS)」に掲載された。

これまで太陽の光エネルギーを利用している海洋生物は、クロロフィルを持つ光合成生物(=植物)であると考えられていた。しかし、2000年に、海洋細菌の中から、レチナールを発色団としてもつ、光受容型の膜タンパク質の総称「ロドプシン」の仲間である「プロテオロドプシン」が光が当たると細胞内から水素イオン(H+)を排出するポンプとしての役割を担っていることが判明して以降、2013年にはナトリウムイオン(Na+)を輸送するロドプシンも海洋細菌より発見されるなど、海洋細菌のロドプシンを用いた光エネルギー利用機構に注目が集まるようになってきている。

一方、単細胞生物から、人間、そして植物にいたるまで共通の仕組みであるエネルギーの保存/運搬物質である「ATP(アデノシン三リン酸:Adenosine Triphosphate)」の合成は、細胞の内外におけるイオンの濃度差を利用して行われており、光エネルギーを用いてイオン輸送を行うロドプシンは、光エネルギーを直接、ATP合成の駆動力に変換するシンプルな光エネルギー利用機構として考えられているものの、そのすべては明らかになっていなかった。

今回、研究グループは、西部太平洋の表層海水から海洋細菌(Nonlabens marinus S1-08T)を分離、解析を行った結果、これまでに機能がわかっているどのロドプシンともグループを形成せず、未知機能グループに含まれているロドプシンを発見。詳細な機能解析を行った結果、緑色光(極大波長:約530nm)光が当たると、塩化物イオン(Cl-)を細胞膜の外側から内側に輸送する機能を有していることが確認され、新たなロドプシンであることが判明したという。

研究グループでは、このロドプシンを「ClR」と命名。また、同海洋細菌は、ClRのほかに水素イオンやナトリウムイオンを細胞の外に運ぶロドプシンを持っていることも確認され、海水を構成する主要イオンである水素イオン、ナトリウムイオン、塩化物イオンの3つのイオンを、光を用いて運搬できる能力を有していることが判明したとのことで、今後は、同海洋細菌がこれらの3種類のロドプシンをどのように操って生命活動を続けているのか、こうしたロドプシンはどの程度海洋細菌に広く見られるものなのか、ロドプシンはどの程度の光エネルギーを受け取っているのかなどを明らかにすることで、海洋細菌の光エネルギー利用機構の解明を目指す方針とコメントしている。

ロドプシンを用いた光エネルギー利用のイメージ図。右がロドプシンを3種類持つNonlabens marinus S1-08T。光エネルギーを用いて輸送されたNa+やCl-の利用法はよく分かっていないという(緑色の矢印は太陽光を表している)