オートファジー(細胞内自食作用)という現象は多様な生命活動に関わっている。イネの正常な花粉・種子(コメ)の形成にもオートファジーが必要なことを、朽津 和幸(くちつ かずゆき)東京理科大学理工学部教授と来須孝光(くるす たかみつ)東京工科大学助教、花俣繁(はなまた しげる)東京大学特任研究員らが確かめた。穀物の花粉・種子形成の新たな仕組みとして注目される。国立遺伝学研究所、理化学研究所、東北大学、長浜バイオ大学、農業生物資源研究所、日本女子大学との共同研究で、約20人の共著者による論文を3月24日付の米科学誌オートファジーに発表した。
オートファジーは、大隅良典(おおすみ よしのり)東京工業大学特任教授らが1990年ごろ、酵母の研究で見つけた。細胞に核がある動植物などの真核生物のどれにも存在する細胞内の生体高分子分解、リサイクルシステムで、病気との関連がわかり、医学・薬学分野でホットな領域のひとつとなっている。ヒトを含む哺乳動物では、オートファジーの能力が欠損すると、ライフサイクルのさまざまな段階で障害が起き、死にいたることも報告されている。しかし、植物でのオートファジーの役割はよくわかっていなかった。
研究グループはまず、イネのオートファジーを可視化する実験系を構築し、オートファジーの能力が欠損した変異体を見つけた。そのオートファジー欠損変異体のイネで、コメがほぼ実らないことを発見した。詳しく調べると、花粉の形成に異常が生じて、不稔になっていることが明らかになった。花粉ができる袋状の葯(やく)の各組織を電子顕微鏡で観察して、オートファジーによる細胞死が起きないと、花粉が正常に形成されない仕組みも突き止めた。研究グループは「将来的に、オートファジーを人為的に制御できるようになれば、穀物の増収や種子の品質改善につながる可能性がある」と期待している。 朽津教授は「いろいろな専門分野の人たちの協力を得て成し遂げられた成果だ。大隅良典先生からも助言を受けた。植物でもオートファジーが重要な役割を果たしているだろう。その研究の突破口で、穀物の不稔の解明にも新しい手がかりになる」と話している。
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