理化学研究所(理研)は4月7日、らせん状に配列した電気四極子(電子雲の歪み)を起源とする鏡像構造(キラリティ=右手と左手の関係を持つ構造)という概念を提唱して実証したと発表した。
同成果は、同所 放射光科学総合研究センター 量子秩序研究グループ 励起秩序研究チームの田中良和専任研究員、大阪大学大学院 基礎工学研究科の木村剛教授らによるもの。詳細は、英国の科学雑誌「Nature Materials」オンライン版に掲載された。
元素の周りの電子雲の広がり方を、量子力学的に表したものが電子軌道である。電子軌道は必ずしも球形ではなく、歪みのある形状を持つこともある。この電子軌道(電子雲)の球形からのずれ(歪み)の1種を電気四極子と呼ぶ。3d遷移金属化合物や4f希土類金属化合物などの物質中で、電気四極子がどのような形状で、どのように配列しているかが、超伝導現象や巨大磁気抵抗現象のような電気的・磁気的、光学的な性質において、重要なことが知られている。このため、電気四極子の状態を調べれば、その物質の電気的、磁気的、光学的性質の手がかりを得ることができる。これまで、放射光共鳴X線回折という測定手法によって電気四極子が測定され、物質中で電気四極子が全て同じ方向性に配列した強的秩序状態や互い違いになった反強的秩序状態などの電子状態が、ある種の3d遷移金属化合物や4f希土類金属化合物で起きていることが明らかにされてきた。
研究グループは、その実験的な検証が難しいという理由から、これまで見過ごされてきた電気四極子配列の鏡像異性という概念を提唱して今回実証した。実証には、大型放射光施設SPring-8の放射光を用い、円偏光共鳴軟X線回折という特殊なX線回折測定の手法により、電子雲歪み配列を可視化することに成功した。
さらに、電気四極子配列の鏡像異性構造の対をなす右巻きおよび左巻き構造が物質中で共存している顕微鏡像(ドメインイメージ)の観測にも成功した。今回の研究で提唱、実証したらせん状に配列した電気四極子を起源とする鏡像構造およびそのドメイン構造を、円偏光などの外的摂動によって自在に制御することが可能になれば、新規の長期保存型光学メモリ材料などの開発につながることが期待できるとコメントしている。