理化学研究所(理研)と大阪市立大学、関西福祉科学大学の3者は、慢性疲労症候群/筋痛性脳脊髄炎(CFS/ME)の患者は健常者と比べて脳神経の炎症反応が広く見られることを陽電子放射断層画像法(PET)で確認し、炎症の生じた脳部位と症状の強さが相関することを突き止めたと発表した。
同成果は、理研ライフサイエンス技術基盤研究センター 健康・病態科学研究チームの渡辺恭良チームリーダー、水野敬研究員らと、大阪市立大学大学院医学研究科代謝内分泌病態内科学疲労クリニカルセンターの中富康仁博士(現 ナカトミファティーグケアクリニック院長)、稲葉雅章教授、同研究科システム神経科学の田中雅彰講師、石井聡病院講師、関西福祉科学大学健康福祉学部の倉恒弘彦教授らによるもの。詳細は米国の科学雑誌「The Journal of Nuclear Medicine」(6月号)に掲載されるに先立ち、オンライン版に掲載された。
CFS/MEは、通常の診断や従来の医学検査では身体的な異常を見つけることができず、治療法も確立していない。原因としては、感染症を含めたウイルスや細菌感染、過度のストレスなど複合的な要因が引き金となり、神経系、内分泌系、免疫系の変調が生じて、脳や神経系が機能障害を起こすためと考えられているが、その発症メカニズムは明らかになっていない。
近年の研究から、CFS/ME患者の脳内では、血流の低下、セロトニン輸送体の密度低下などの異常が発見され、脳機能の低下が異常な倦怠感を引き越こしている可能性が示されてきたほか、患者の血液や髄液を健常者と比較検査した調査では、炎症性サイトカインがわずかに上昇していることも報告されており、脳内での炎症が脳機能の低下に関わっているのではないかと推測されるようになってきたものの、実際に患者の脳内で炎症が発生しているかを調べた研究はこれまでなかった。
脳内の炎症には、神経系を構成する免疫担当細胞のマイクログリアやアストロサイトの活性化が関わっていることが知られていることから研究グループでは今回、これらの細胞の活性化の指標となるタンパク質の増加についてPETでの可視化を試みた。
具体的には、CFS/ME患者9名と健常者10名の脳をPET検査で比較したほか、各患者の疲労度や抑うつ症状、認知機能について、質問表による自己診断やテストによる評価で症状の強さを評価した。
その結果、PET検査では、患者の脳内では主に、視床、中脳、橋、海馬、扁桃体や帯状回という部位での炎症が増加しており、健常者と比べて有為な差があることが判明したという。
また、各脳部位における炎症の程度とCFS/MEの各症状には相関があり、視床、中脳、扁桃体での炎症が強い場合は認知機能の障害が強く、帯状回や視床の炎症が強い場合は頭痛や筋肉痛などの痛みが、また海馬での炎症が強い場合は抑うつの症状が強いことも明らかになったとする。
この結果について、脳内の炎症が起こっている場所で脳機能が低下し、CFS/MEにおけるさまざまな症状を引き起こしている可能性を示唆すると研究グループでは説明しており、客観的な画像検査をもとにしたCFS/ME診断の確立への大きな一歩となるとのことで、今後さらなるCFS/MEの病態の解明に取り組み、診断技術の確立や有効な治療法、予防法の開発を進めていく方針としている。