外科手術の際に器具の鉗子(かんし)の死角となる領域を可視化する技術を、早稲田大学理工学術院の藤江正克(ふじえ まさかつ)教授と小林洋(こばやし よう)准教授らが九州大学先端医工学診療部、九州大学病院小児科と共同で開発した。内視鏡手術の視野を広げ、安全性を高める技術として注目される。

写真. 左が従来の可視化なし。右が手術用具の鉗子を透明化した可視化。

外科は「切ったはった」の世界である。「偉大な外科医ほど傷を大きく切る」とかつて言われた。広い視野を確保して手術する方が安全だからだ。1990年代から、内視鏡手術が急速に普及して、小さく切る手術が次第に増えてきた。患者の肉体的な負担は減ったが、器具を操作する空間が狭いうえに、手術器具で遮蔽されて視野の欠損が生じ、縫合などの作業を困難にして、合併症を引き起こす危険性が残っている。

早稲田大学のグループが開発した新技術はまず、手術中に内視鏡カメラとは別のもう1台のカメラを挿入し、鉗子の下側から手術の領域を立体的に撮影する。その映像を上側の内視鏡カメラで撮影したかのように補正して鉗子に重ね合わせて投影し、鉗子部分がまるで透けたようにして、隠れていた術部を可視化する仕掛けだ。 いわば、死角を撮影した画像を合成して、擬似的に透明化する手法で、手術器具の手元などが見づらくなるという課題を解決した。実際に、開発したプロトタイプのカメラで工学的評価と、医師による試験を実施し、縫合など操作の精度が向上することを確かめた。

今回の開発は、製品化されている内視鏡や器具などをそのまま利用できるため、すぐ実用化できる。特に子どもの内視鏡手術のように、非常に狭い空間で手術する際にメリットは大きい。研究グループはパートナーになる企業を見つけ、早期の実用化を目指している。特許は出願した。

小林洋・准教授は「既存の技術を組み合わせたもので、アイデアが良かった。カメラ1台を余分に入れるため、負担を増やさないようにする必要はあるが、血管などを縫合する際の誤差が小さくなるので、内視鏡手術の安全性の向上に役立つだろう」と話している。