物質・材料研究機構(NIMS)と東北大学は4月2日、従来のスピン分解光電子分光法では検出が困難だった埋もれた強磁性層からのスピン分解電子状態の検出に成功したと発表した。

同成果は、NIMSの上田茂典主任研究員、東北大学 金属材料研究所の水口将輝准教授、同大 電気通信研究所の白井正文教授らによるもの。詳細は、「Applied Physics Letters」に掲載される予定。

HDDの記録情報読み出し用ヘッドなど、強磁性体を用いたデバイス開発において、非磁性体材料に埋もれた強磁性層のスピン分解電子状態を直接観測することは、強磁性体を用いたデバイス開発において必要不可欠であるが、従来のスピン分解光電子分光法では困難だった。

そこで今回、埋もれた強磁性層からの電子状態を測定するため、大型放射光施設SPring-8の高輝度硬X線を利用した。硬X線を用いた光電子分光法は、埋もれた層からの電子状態を測定することができる。さらに、従来の方法とは異なるスピン検出方法を新たに考案。硬X線光電子分光法と組み合わせることによって、検出効率を大きく向上させた。これにより、Au(金)薄膜層の下に埋もれたFeNi(鉄ニッケル)合金からなる、強磁性層のスピン分解電子状態を検出することに成功したという。

今回の手法により、これまでの手法では直接的な観測が難しかった強磁性体と非磁性体の界面近傍での強磁性体のスピン分解電子状態を測定することが可能となる。また、強磁性体を用いたデバイス構造の特性評価、および強磁性層と非磁性層の接合界面近傍での強磁性層のスピン分解電子状態を比較、検討することで、デバイス特性の向上への寄与や新物質開発への応用展開が期待されるとコメントしている。

今回の研究で行ったスピン分解光電子分光の実験配置の模式図。(a)上から見た場合の実験配置。(b)X線入射方向から見た実験配置。研究では、通常のスピン検出器を用いないので、2次元検出器を用いて高効率に測定を行うことができる