国立遺伝学研究所(遺伝研)は3月27日、生まれて間もないマウスの大脳皮質の神経回路を可視化する方法を開発し、生きたまま脳の深部までとらえることの可能な改良型の二光子顕微鏡の観察技術と組み合わせることで、新生児大脳皮質の神経回路が成長する様子を直接観察することに成功したと発表した。

同成果は、同研究所の水野秀信氏、羅ブンジュウ氏、佐藤拓也氏、岩里琢治氏、理化学研究所脳科学総合研究センターの斎藤芳和氏、糸原重美氏、生理学研究所の足澤悦子氏、吉村由美子氏らによるもの。詳細は3月27日付(米国時間)で米国科学誌「Neuron」オンライン版に先行掲載された。

ヒトの脳表面の大部分を占める大脳皮質は、哺乳類に特有の脳構造であり、そこにある神経回路により、知覚や運動、思考、記憶などの高度な情報処理が行われていることが知られている。しかし、この回路は生まれた時は未熟でおおまかにしかできておらず、さまざまな刺激により、成長することが分かっていたものの、そのプロセスやメカニズムについては、良く分かっていなかった。

研究グループでは、今回開発した技術を用いて新生児マウスの大脳皮質を調べたところ、神経細胞は突起を激しく伸び縮みさせながら、結合すべき正しい相手に向かって突起を広げていくことを突き止めたという。また、遺伝子操作によって情報をうまく受け取れなくした神経細胞では、突起の伸び縮みの程度が異常に大きくなり、正しい相手の有無と関係なくランダムに突起が広がることも確認したという。

なお、研究グループでは、今回開発した技術を活用していくことで、ヒトをはじめとする哺乳類の赤ん坊の脳の発達メカニズムの理解が進むことが期待できるとコメントしている。

二光子顕微鏡によって観察した大脳皮質神経細胞が正常に成熟する様子。18時間に4回(生後5日目、4時間半後、9時間後、18時間後)、同じマウスの細胞を観察。樹状突起の先端(矢頭)が伸び縮みしていることが見て取れる。0hの白色の矢頭が最初の枝の先端の位置。4.5h/9h/18hの白の矢頭は変化しなかった枝。黄色の矢頭は伸びた枝。青色の矢頭は縮んだ枝。下図の緑色の部分はバレル内側をそれぞれ示している