物質・材料研究機構(NIMS)は3月26日、希少金属のジスプロシウムを一切使用しないで、ジスプロシウムを4%含む焼結磁石と同等の保磁力と同等以上の最大エネルギー積を有するネオジム磁石を実証したと発表した。
同成果は、NIMS 元素戦略磁性材料研究拠点の宝野和博フェローらによるもの。詳細は、金属系材料の速報誌「Scripta Materialia」のオンライン版に掲載される。
近年、ハイブリッド自動車用モータの用途でネオジム磁石の使用量が急増しているが、使用中に温度が200℃程度まで上がるため、耐熱性に効果のあるジスプロシウムが8%程度使われている。しかし、ジスプロシウムは、原料の産地が限られた地域に偏在することや地政学的資源リスクが高いことから希少金属(レアメタル)に分類されており、その使用量の削減が強く求められている。一方で、耐熱性の指標となる保磁力の向上には、磁石を構成する結晶粒の微細化が効果があることが知られており、ネオジム磁石の耐熱性を高める研究が進められていた。
今回の研究では、大同特殊鋼から提供された、従来の焼結磁石の1/20程度の大きさの結晶からなる熱間加工ネオジム磁石に、低融点のNd70Cu30合金を650℃で溶かして結晶粒の間に浸透させ連続的なネオジム銅(NdCu)合金層を形成した。これにより、熱間加工磁石の保磁力を1.40Tから1.97Tまで高めたが、この方法では磁石の体積膨張を伴うため磁化が希薄化されて、磁力が下がってしまう。そこで、NdCu拡散浸透時の体積膨張を押さえるという工夫で、室温で1.92Tの高保磁力を実現すると同時に、残留磁化の減少を最小限に抑え室温で358kJ/m3の最大エネルギー積を維持したという。この膨張拘束拡散処理された熱間加工磁石は、従来の焼結磁石と比べて保磁力の温度依存性が低く、その結果、ジスプロシウムを一切用いずに、200℃の最大エネルギー積で190kJ/m3という、4%ジスプロシウムを含む焼結磁石よりも優れた値を達成した。今後は、室温で2.5T、200℃で0.8T程度の保磁力を有するネオジム磁石の開発を目指し、さらに研究を進めていくとコメントしている。