宇宙航空研究開発機構(JAXA)は3月27日、2009年1月に打ち上げた温室効果ガス観測技術衛星「いぶき(GOSAT)」による2009年から2011年までの2年間の観測データをまとめ、全球の月別・地域別の正味のメタン収支(消失と放出の総量)を推定したと発表した。
「いぶき」は、二酸化炭素とメタンの濃度を宇宙から観測することを主目的として打ち上げられた観測衛星。二酸化炭素やメタンは温室効果ガスとして知られており、気候変動のメカニズムなどの解明に向けて、その収支の精度などを知る必要がある。
今回の調査は、GOSAT搭載センサである「温室効果ガス観測センサ」の観測スペクトルから算出されたメタンカラム平均濃度(地表面から大気上端までの乾燥空気に対するメタン分子の割合)データを元に、世界、百数十点ほどある地上観測点での観測結果を組み合わせることで、2009年6月から2011年5月までの24カ月分の地球を43分割した地域に分けた形でのそれぞれの月別メタン正味収支を調べた結果、メタン濃度は1年を通して南半球より北半球のほうが高いことや、北半球の中でも季節や場所によって濃度が異なることが判明したという。
また、月別・地域別のメタンの正味収支量の推定値より、地域別の年間収支量が推定され、そこから、地球全体で見た場合、メタン放出量の多い地域が複数分布しており、それらの地域は人口密度の高い地域とおよそ一致していること、ならびに東南アジア域や、南米およびアフリカの南亜熱帯地域のメタンの放出が特に多いことが判明したとする。
さらに、地域別メタンの年間収支量の変化を求めたところ、特に亜熱帯域においては、これまでの推定結果に比べて放出量がもっと多いはずであると考えられる地域が多いことが判明したほか、地域によっては季節変動にも違いが見られることが判明したという。
地上観測データに「いぶき」観測データを加えたことによる、全球の43地域における各メタン収支推定値の変化。赤は「いぶき」観測データを加えたことによって放出がより強く推定された地域、青は放出がより弱く推定された地域 (C)JAXA |
今回の結果について研究チームでは、「いぶき」による衛星観測は地上観測ネットワークの空白域を埋めることで、特に亜熱帯地域の地上観測データのみでは捉え切れていないメタン収支に係る新たな情報を与える可能性が示されたとしており、こうした情報が、今後メタン放出に関する陸域生態系データベースの改善や、観測データに基づく炭素循環に係る新たな知見につながることが期待されるとのことで、今回の推定結果について、研究公募により採択された関連研究者などに提供し、海外の他機関による同様の解析結果との比較などを通してそれらの妥当性について評価・確認を行った上で、2014年夏までに一般に公開する予定だとしている。