京都大学(京大)は3月19日、日本とアメリカの大学生を対象に調査を行った結果、アメリカにおいては個人主義傾向と親しい友人の数や幸福感には関連が見られなかったものの、日本においては個人主義傾向が高い人は、親しい友人の数が少なく、幸福感が低いことが判明したこと、ならびにこの関係は、日本において個人主義的で競争的な制度を導入している企業で働く成人にも見出されたと発表した。
同成果は、同大 こころの未来研究センターの内田由紀子 准教授、同大 教育学研究科の荻原祐二 大学院生らによるもの。詳細は、スイスの科学雑誌「Frontiers in Psychology」に掲載された。
日本では、近年のグローバリゼーションに伴い個人主義(個人の独立や自律を重視)が台頭してきた。欧米では、長い歴史をかけてそうした個人主義が培われてきた経緯があるものの、日本は元々、個人主義的な社会ではなかったことから、日本で暮らす人々の多くが成果主義を導入する企業や個性重視を掲げる教育現場といった「個人主義社会」に必要な心理・行動傾向を身に着けるに至っておらず、結果として、当初期待されていた自由競争を促し生産性を高めることや、個人の選択の自由を増加させ幸福感を高めるといった結果と、日本に伝統的な規範や価値観との間に葛藤が生じ、他者と親しい関係性をうまく築けずに幸福感が低くなるというネガティブな影響を与えている可能性が指摘されていた。
今回の研究は、日本とアメリカの大学生を対象に調査を行ったもので、参加者は、個人主義傾向、親しい友人の数、幸福感を報告。個人主義傾向を測定する指標として、「課題や技術において他の人よりもうまくやると、自分に価値があると感じる」、「自分をどう思うかは、私が学校や職場でどれだけ優秀であるかということとは結びついていない(逆転項目)」などの項目が用いられたほか、親しい友人の数は、「ソシオグラム」と呼ばれる人間関係図を10分間以内に作成し、その後に指摘された「一緒にいて居心地の良いと思える友人」の数を採用した。また、幸福感は、「人生満足感尺度(「だいたいにおいて私の人生は理想に近いものである」など)」、「快感情(幸せ、喜びなど)・不快感情(不安、憂うつなど)」を日頃どの程度頻繁に感じるか、「協調的な幸福感(「自分だけでなく、身近な周りの人も楽しい気持ちでいると思う」など)」、「身体的健康(頭痛、食欲がないなど)」を合成した変数を用いて導き出したという。
これらの調査の結果、アメリカにおいては、個人主義傾向は親しい友人の数や幸福感と関連していないことが示されたが、日本においては、個人主義傾向が高い人ほど、親しい友人の数が少なく、幸福感が低いことが示されることとなった。
この結果を受けて研究グループでは、さらに日本でて個人主義的な制度を実際に導入している企業で働く成人を対象に同様の調査を実施。その結果、個人主義が推奨されている制度下においても、個人主義傾向が高い人ほど、親しい友人の数が少なく、幸福感が低いことが判明したとする。
これらの結果について、研究グループは、少なくとも現在の日本において、個人主義的な人は対人関係の不振を生じ、幸福感が低くなっていることが示されたと指摘。将来、さらなるグローバル化が進むことを考慮すると、日本社会の個人主義化は避けがたいと考えられるが、個人主義的な「制度」を導入するだけでは、現在の日本人が快適に働き、生産性を高くすることは難しいと考えられるとし、現在のような過渡期においては、互いの独立性を担保した上で、積極的な関係の構築を行うといった、個々人が個人主義社会で必要な心理・行動傾向を身に付けることが必要になってくるほか、個人が孤立しないような社会的な制度や場を設計することが効果的と考えられるとコメントしており、今後、個人主義傾向が対人関係や幸福感に与える影響について因果関係を含めたより具体的なプロセスの解明を進めていくことで、対人関係の不振によって生じる社会問題(ひきこもり、無縁社会化など)の解決・予防にもつなげられるのではないかと説明している。