大阪大学(阪大)は、糖尿病に対しての新規治療法として、腸から分泌されるホルモンであるインクレチンを切断し、不活性化する酵素「DPP-4(Dipeptidyl Peptidase-4)」を標的とした治療ワクチンをマウスに適用したところ、現在、臨床で広く使用されている糖尿病治療薬であるDPP-4阻害薬と同様の改善作用が確認されたと発表した。
同成果は、同大大学院連合小児発達学研究科の中神啓徳 寄附講座教授(健康発達医学)、同医学系研究科の森下竜一 寄附講座教授(臨床遺伝子治療学)、楽木宏実 教授(老年・腎臓内科)らによるもの。詳細は「米国科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America:PNAS)」電子版に掲載された。
食生活の変化などで日本の糖尿病患者の数は年々増加を続けている。治療法としては、運動療法・食事療法のほか、薬物療法があり、複数の薬剤が治療薬として活用されている。中でも近年、インクレチンの作用により血糖を低下させるDPP-4阻害薬の使用が増えてきている。具体的な作用機序としては、インクレチンの1つである「GLP-1(glucagon-like peptide-1)」は食事摂取後に主に小腸から分泌され、膵臓(β細胞)からのインスリン分泌を促進し血糖を下げる作用があるが、血中などに存在するDPP-4により容易に分解され不活性化されてしまう特徴がある。これに対し、DPP-4阻害薬を用いると、GLP-1の血中濃度が増加されることとなり、その結果、インスリン分泌が促進され、血糖を下げることができることがこれまでの研究から判明している。
今回の取り組みはそうしたDPP-4を薬剤ではなくワクチンで阻害することを目指したもの。具体的には、DPP-4の部分配列を抗原として設計し、自然免疫を活性化するようなアジュバント(分子)と一緒に、2週間ごとに3回マウスに接種させたところ、DPP-4に対する抗体が産生され、DPP-4にその抗体が結合することにより、DPP-4の機能を阻害することが確認されたという。
また、高脂肪食を食べさせて糖尿病にしたモデルにこのDPP-4に対するワクチンを投与したところ、血糖を有意に下げることができ、そのときの血液中のGLP-1濃度およびインスリン濃度が高いことも確認されたとする。さらに、DPP-4に対する抗体はワクチン接種後の数カ月間維持できていることも確認したほか、ワクチンの追加により再び抗体が上昇することも確認されたという。
今回の結果について研究グループでは、生活習慣病における薬物治療は、高血圧・糖尿病・脂質異常症のそれぞれに対する厳格な管理が求められており、疾患ごとに多剤を併用するため患者ごとに非常に多くの薬剤が必要となることも多いことから、今回の成果を活用し、年に数回、ワクチン接種をすることで薬剤と同等の効果を得ることができるようになれば、医療費の削減のみならず、薬の飲み忘れ防止など、治療効果の改善などが期待できるようになるとコメントしている。