産業技術総合研究所(産総研)は3月18日、封止材をアイオノマーに替えることで、長期の「PID(Potential-induced degradation)」試験(AIST法)においても劣化が見られないCIGS太陽電池モジュールを開発したと発表した。
同成果は、産総研 太陽光発電工学研究センター 太陽電池モジュール信頼性評価連携研究体の増田淳 連携研究体長、原浩二郎 主任研究員、ならびに先端産業プロセス・高効率化チームの柴田肇 研究チーム長、小牧弘典 研究員、上川由紀子 産総研特別研究員らによるもの。詳細は、2014年3月17~20日の期間で青山学院大学にて開催されている「第61回応用物理学会春季学術講演会」で、 久留米工業高等専門学校との連名として発表される。
PIDは、特定の条件下において、太陽電池モジュールに高電圧がかかり、出力が低下する現象で、モジュールやシステムの構成部材の種類、高温、高湿(水)、システム電圧などの条件が影響していると考えられてきた。近年の太陽光発電の世界的普及の影で、長期間の利用による経年劣化とは異なり、数カ月から数年の比較的短期間でも起こりうるPID現象による出力低下が問題視されるようになっている。
今回の研究は、そうしたPID現象がメガソーラーを中心に普及が進むCIGS対抗電池モジュールにておいても生じるのがどうかの検証として行われたもので、カバーガラス(白板ガラス)、封止材のEVAフィルム、CIGSサブモジュール、バックシートを重ね合わせて、真空ラミネートすることにより作製した標準型モジュールと、封止材にEVAフィルムの替わりにアイオノマーフィルムを用いた対策モジュールを作製し、その比較を行った。EVAの替わりに用いられたアイオノマーは、高い体積抵抗率を有しており、結晶シリコン太陽電池においても封止材に用いるとナトリウムイオンなどの拡散を防ぎ、高いPID耐性を示すことが知られていることから、今回の調査でも比較用途として用いられたという。
実際にPID試験(AIST法)により、結晶シリコンならびに薄膜シリコン太陽電池モジュール、標準型CIGS太陽電池モジュールの太陽電池特性の変化を評価したところ(試験条件は、-1000V、85℃、2時間~7日)、結晶シリコン太陽電池モジュールでは数時間、薄膜シリコン太陽電池モジュールでは3日の試験により出力が数%以下まで低下したが、標準型CIGS太陽電池モジュールでは、3日後で92%、7日後でも46%の出力を維持できることが確認された。研究グループでは、材料や構造、劣化メカニズムが異なるため単純に比較はできないとしつつも、同一PID試験条件で比較した場合、CIGS太陽電池はシリコン系太陽電池に比べて高いPID耐性をもつといえると説明するほか、詳細な検討を行った結果、CIGS太陽電池モジュールの劣化の主原因は、シリコン系太陽電池と同様にカバーガラスから拡散するナトリウムイオンなどであることが判明したとする。
この結果を受けて、PID試験前後の標準型モジュールとPID対策モジュールの出力相対値の変化を比較したところ(試験条件は、-1000V、85℃、~28日)、標準型モジュールの変換効率は、PID試験14日後に約30%まで低下したが、アイオノマーを用いたPID対策モジュールでは、試験28日後においても劣化は起こっていないことが確認されたという。
研究グループでは、今回実施したPID試験(AIST法)は、一般的なPID試験方法に比べてかなり過酷な試験条件であることから、そのような厳しい条件においてもCIGS太陽電池モジュールが高いPID耐性を示したことは、今後、詳細な検討が必要にはなるが、仮に屋外設置モジュールやほかのPID試験方法で劣化が起きても、今回の結果よりも小さいと考えられるとコメントするほか、部材の代替などにより対策も十分に可能であるとの見方を示しており、今後は、より詳細なメカニズムの解明やほかのPID試験方法での評価や屋外モジュールとの比較、ほかの対策技術の検討などを行っていく予定だとしている。