国立精神・神経医療研究センター(NCNP)は3月15日、炎症性サイトカインである「インターロイキン6(IL-6)」の機能を阻害する薬剤が、神経難病「視神経脊髄炎(NMO:neuromyelitis optica)」の患者の症状改善に有効であることを臨床研究によって実証したと発表した。

同成果は、NCNP神経研究所 免疫研究部部長兼センター病院 多発性硬化症センター長の山村隆氏、同センター病院の荒木学 医師らによるもの。詳細は3月14日付(米国時間)で米国神経学会の「Neurology」オンライン版に掲載された。

視神経脊髄炎は再発のたびに神経組織が破壊される神経難病で、高度の視力障害、下肢の麻痺、脊髄炎による疼痛、異常感覚などを伴い、患者は全国に約4000人ほどいると推定されている。これまで治療法は確立されておらず、対症療法の効果も乏しいことから、患者のQOL下の要因となるこれらの症状をどうやって改善させるかが課題となっていた。

研究グループは、そうした課題の解決に向け、これまでの研究から、視神経脊髄炎患者で検出される抗アクアポリン4抗体の産生細胞がプラズマブラスト(形質芽細胞)であること、ならびにプラズマブラストの増殖や生存維持にサイトカインIL-6が必要であることを示しており、今回、こうしたこれまでの知見から、IL-6の働きを制御することで、視神経脊髄炎を治療できるのではないかと考え、抗IL-6受容体抗体「トシリズマブ」を用いた臨床研究を実施したという。

具体的には、視神経脊髄炎の通常治療(ステロイド、免疫抑制剤、血漿交換療法など)が無効であった難治性視神経脊髄炎患者7名(女性6名、男性1名)に対し、トシリズマブ8mg/kgを1カ月に1回、1年間にわたって点滴静注にて投与。その結果、トシリズマブ治療前後の年間再発率は2.9±1.1回であったのが0.4±0.8回に有意に減少し、7名中5名が再発しなかったという。

治療前後の年間再発率の変化。トシリズマブを開始する前の年間平均再発数と、開始後1年間の再発数を比較したところ、再発(急性増悪)回数の著明な減少が確認できたという(mean + SEM)

7症例の臨床経過。個々の症例で、再発・急性増悪は赤色のカラムで示し、トシリズマブ投与のタイミングは青い矢印で示している

また、神経障害を表すEDSS(総合障害度評価尺度)は5.1 ±1.7から4.1±1.6に有意に改善したほか、四肢や体幹部の慢性疼痛や全身の疲労については、「Numerical rating scale(症状なしを0、最大の症状を10として点数で評価)」で、各々治療前3.0±1.5から治療開始1年後で0.9±1.2、 治療前6.1±2.0から1年後で3.0±1.4へと改善することも確認したという。

慢性疼痛と疲労の変化。トシリズマブ投与直前、6カ月後、1年後に、慢性疼痛と疲労が有意に軽減していることが示された

さらに抗アクアポリン4(AQP4)抗体の血中レベルも、治療の経過に伴って有意に低下したことが確認された。

抗アクアポリン4抗体の減少。アクアポリン4発現細胞に対する抗体の反応性をフローサイトメーターで解析した結果を示したもの

これまでのさまざまな研究から、NMOはアクアポリン4抗体の関与する病気であり、患者検体ではさまざまな炎症関連分子が増加していることがわかっていたが、研究グループではこれまでの研究から、IL-6の重要性を基礎研究で提示し、IL-6阻害薬の有効性を推測してきた。今回の成果は、研究室で産み出した新規治療のアイデアを、同じ施設の専門医が臨床で確認したトランスレーション研究の成果であり、その有効性が示されたことからNMO治療に大きな転機をもたらすことが期待できると研究グループはコメント。今後、NCNPとして、トシリズマブの長期的有効性や安全性の検討を継続して行い、再発抑制や疼痛軽減の作用機序の検討を進めていくとしており、将来的に、NMO治療の医薬品の開発が活発化することを期待したいとしている。