大阪大学(阪大)は、フッ素樹脂表面の平坦性を維持したまま金属と強力接着する技術を開発したと発表した。

同成果は、同大大学院 工学研究科附属超精密科学研究センターの山村和也准教授、大久保雄司助教、佐藤悠博士前期課程1年らによるもの。日油 先端技術研究所と共同で行われた。詳細は、3月13日に東京理科大学で開催された「表面技術協会 第129回講演大会」にて発表された。

電子機器の動作周波数の上昇により、信号の減速や消費電力の増加といった課題が生じている。これらの課題を解決するため、プリント配線板材料の見直しが検討されている。プリント配線板の樹脂材料の誘電特性が良好なほど(誘電率と誘電正接が低いほど)、信号の減速が少なく、消費電力の損失を抑えることができる。ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)は、既存のプリント配線板材料よりも誘電特性に優れているので、既存材料に取って代わる高周波用プリント配線板材料として期待されている。

しかし、フッ素樹脂は表面エネルギーが低く、他の物質との接着が困難である。Naナフタレン錯体溶液といった薬剤によって密着性を改善させる方法があるが、樹脂表面を凸凹にして密着力を上げるため、電流の流れが悪くなってしまう。また、金属配線の幅が樹脂の凸凹により狭くできないため、デバイスの小型化の妨げにもなっている。このようなことから、フッ素樹脂基板を平滑なまま、かつ金属との密着性を良好にする技術が求められている。

研究グループは、大気圧プラズマ処理と表面グラフト化によるPTFE表面機能化、日油が開発した低温で固まる銀インクを組み合わせることにより、要求を満たすことに取り組んだ。その結果、未処理のPTFE上に銀インクを塗布して熱処理(硬化)したものは、銀膜がセロハンテープで簡単に剥離したのに対し、同技術を適用したPTFE上ではセロハンテープを押し付けて剥がしても、銀膜が剥離せず、フッ素樹脂の表面にも高い密着性を有する金属膜を作製できることが実証できたという。また、PTFEと銀膜の引き剥がす力(密着強度)を測定したところ、製品規格値に近い値(0.6N/mm)が得られた。さらに、プラズマ処理前後のPTFE表面および表面グラフト化前後のPTFE表面を観察したが、表面の粗さは変化していなかったという。

同技術により、フッ素樹脂を高周波用プリント配線板材料として検討できるようになったほか、インクジェット塗布が可能な銀インクを用いることにより、必要な部分のみに配線パターンを形成する、いわゆるドロップオンデマンド方式によりフッ素樹脂上でも電気回路が作製可能となった。今後、フッ素樹脂の用途拡大に寄与することが期待できるとコメントしている。

テープ剥離試験結果の比較

従来技術と同技術におけるPTFE金属化の手順(概念図)

密着強度試験結果の比較