T花々が咲き乱れる季節がめぐってきた。「花の色は うつりにけりな いたずらに わが身世にふる ながめせしまに」(小野小町)とうたわれたように、花の色はうつろいやすいが、多くはフラボノイド類のアントシアニンという色素によって彩られている。このアントシアニンを生産する効率を高めて、花の色を濃くする新しいタンパク質を、基礎生物学研究所(愛知県岡崎市)の森田裕将(もりた やすまさ)研究員(現・香川大学研究員)、星野敦(ほしの あつし)助教らは、サントリーグローバルイノベーションセンター、農研機構花き研究所などと共同で発見した。3月14日に英植物学誌The Plant Journalのオンライン版に発表した。

写真1. EFPタンパク質が働かず、花の色が淡いアサガオの突然変異体(左)と正常なアサガオ(右)

写真2. EFPの働きを抑えて色が薄くなったペチュニュア(左)とトレニア(右)。
それぞれ左側がEFPを抑える前の濃い色の花

研究グループは突然変異がよく起きるアサガオで研究した。まず、アントシアニンの量が減って淡い色になる変異アサガオを見つけた。それから突然変異を起こしている遺伝子のDNAを、塩基配列から探しだす独自の方法で突き止めた。それは、アントシアニンの生産効率を高めて、花の色を濃くしているタンパク質のDNAだった。新しいタンパク質で、フラボノイド生産促進因子(EFP)と名付けた。

この因子が働くと、働かない場合に比べてアントシアニンの生産効率を3倍程度に高め、色を濃くしていた。このEFPはヒルガオ科のアサガオだけでなく、ナス科のペチュニアやアゼナ科のトレニアにも存在していた。その働きを抑えると、薄い花が咲くことも確かめた。多様な植物で花の色を濃くするように作用していることがわかった。

研究グループは、EFPがアントシアニンの合成を調節しているとみて、詳しい解析を進めている。また「花のアントシアニンやフラボノイドの含有量を増やしたり、減らしたりすれば、新しい価値を持った花や果実の品種改良に役立つ」と期待している。小野小町が平安時代初期に感嘆した花の色の 変化や奥深い魅力に、現代科学のメスが入りつつあるともいえる。

星野敦さんは「このタンパク質はいろいろな植物で同じように花の色の濃さに影響しているようだ。花の色が大事な植物の品種づくりのターゲットになる。また、今回の発見はフラボノイド合成経路の進化を解く新しい手掛かりにもなるだろう」と話している。

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