神経難病の視神経脊髄炎(NMO)の症状改善に、炎症性サイトカインのインターロイキン(IL)6の機能を阻害する薬が極めて有効なことを、国立神経・精神医療研究センター免疫研究部の山村隆部長と荒木学医師らが臨床研究で実証した。3月15日の米神経学会誌ニューロロジーのオンライン版で論文を発表した。山村部長は「神経内科の病気で、これほど効く薬は珍しい」と指摘している。
視神経脊髄炎は視神経と脊髄に炎症が起きる自己免疫性の中枢神経難病。多くの患者は再発を繰り返しながら、視力低下や歩行障害になり、慢性疼痛を伴う。患者の血液中にアクアポリン4(水分子を通す膜タンパク質の1種)に対する抗体が検出されることが2005年に見つかり、似た症状の神経難病の多発性硬化症(MS)と区別されるようになった。治療法は十分に確立されていない。患者は全国に約4000人いると推定されている。
山村部長らは、抗アクアポリン4抗体産生にIL6が必要なことを研究で発見した。IL6の働きを抑える抗IL6受容体抗体の薬、トシリズマブ(商品名アクテムラ)を使えば、効くのではないかとみて、臨床研究に乗り出した。近畿大学医学部神経内科(楠進教授、宮本勝一講師)と共同で、通常の治療でコントロールできない視神経脊髄炎の重症患者7人(女性6人、男性1人)に対し、1年間にわたり月1回の点滴をした。
トシリズマブの投与開始後、平均の年間再発回数は2.9回から0.4回へ激減した。7人全員の症状が和らぎ、うち5人は再発しなかった。全身の慢性疼痛や疲労も大幅に改善した。視神経脊髄炎の指標となっている抗アクアポリン4抗体の血中濃度はこの治療で低下した。
トシリズマブは、IL6を発見した岸本忠三大阪大学名誉教授と共同で中外製薬が創薬して、関節リウマチなどの薬として世界中で販売している。山村部長らの研究がきっかけになって、中外製薬は改良したトシリズマブの後継薬を使い、視神経脊髄炎の国際的な臨床試験(治験)を開始している。
山村部長は「私たちのアイデアで臨床研究がドイツでも実施されたが、同様に極めて効果が高く、国際的に反響がある。治療が難しい慢性疼痛にも効くので、各国の神経内科医が注目している。この病気は日本に多い。数年後には重症の患者の治療法になるだろう。新しい治療法が日本から早く生まれるのを期待したい」と語っている。
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