東北大学は3月13日、2003年から2006年にかけて国土交通省が全国で発注した工事の入札データを統計的に分析した結果、当該期間中に談合を繰り返した可能性の高い業者が約1000社あり、またそれらの業者が落札した工事は約8600億円におよぶことがデータ上で示されたと発表した。
同成果は、ニューヨーク大学スターンビジネススクールの川合慶助教授と東北大学国際教育院の中林純准教授らによるもの。
日本の公共工事をはじめとする政府の入札では、すべての札が予定価格(非公表の入札上限価格)を超えた場合、ただちに2回目の入札(再度入札)が行われ、この再度入札は入札案件の2割弱で起こっている。今回の研究は、2003年から2006年にかけて国土交通省の旧建設省部局が発注した工事すべての入札結果データ4万件のうち、再度入札が行われた工事に焦点を当て、談合の可能性を分析したもの。
これまでも新聞報道などで指摘されてきたが、再度入札が行われた入札のほとんどで初回に最低金額をつけた業者が再度入札でも最低価格を入札する、いわゆる「1位不動」と呼ばれる現象がある。1位となった業者が原価面などで他業者とくらべて十分に優位であれば談合がなくても起こる可能性があるため、1位不動であっても、それがすぐに入札談合が行われていたことには結びつかない。
そこで研究グループでは、再度入札に移行した案件のうち、初回の入札で1位と2位とが接戦となった(2業者の入札金額の差が小さい)案件に着目して分析を行ったという。これは、もし入札が競争的に行われていれば、初回入札において接戦で1位2位だった2業者は、その原価や予定価格の予測などに大きな差がない可能性が高く、したがって、再度入札では初回入札1位2位のいずれの業者も1位になっておかしくないと判断できるためで、もし入札が競争的に行われていたならば、初回入札で1位だった業者が再度入札で再び1位になる割合は、初回入札1位2位の入札額の差が小さくなるほど、50%に近づくはずである。しかし、実際の入札結果データでは、初回1位2位が接戦(2業者の金額差の予定価格に対する比率が5%以下)であった入札において、初回入札1位業者が再度入札において再び1位になる割合は97.5%であったという。また、この結果は、「接戦」の定義を2%などの他の数字にしてもほとんど変化しないことが確認されたという。
こうした結果について、研究グループは、公共工事の入札では、公共工事の入札では初回入札ですべての札が予定価格を超えた場合、初回入札の最低入札金額のみが、その場で業者に対して公開されるという制度上、初回入札1位の業者が再度入札で不利になるよう設計されていることを考慮すれば、競争の結果とはとても解釈できない数字であると指摘(初回入札において1位の業者は2位の入札との差がわからないが、初回2位だった業者は、1位との差がどれほどであったのか分かり、接戦で2位だった場合、再度入札において1位の業者が入札すると思われる金額より少し値引きして入札することで、落札する可能性を高めることができ、この制度を踏まえると、初回入札で接戦の末に1位となった業者が、再度入札で初回2位だった業者に再び勝つ可能性は、入札が競争的ならば、50%を十分に下回るはずとなる)。
さらなる調査として、初回入札で1位と2位だった業者の再度入札における入札金額の差(初回2位業者と1位業者の再度入札金額差の予定価格に対する比率)について分析を行ったところ、初回入札1位2位が接戦(予定価格に対する比率が5%以下)の入札における入札金額差の分布は、そのほとんど(97.5%)が初回1位業者が再度入札でも勝っていることを示したとする。
また、こうした初回と再度入札における順位が不動である現象は1位2位業者間に特有なもので、初回2位3位業者の間ではそうなっていないことも確認された。具体的には、初回入札2位3位の接戦の定義を、予定価格に対して5%以下として調べた結果、初回3位であった業者であっても再度入札において、初回2位の業者に接戦で敗れた3位業者は再度入札ではほぼ50%の割合で初回2位業者に勝っていることが判明したとする。
さらに、再度入札において初回2位業者が初回1位業者に僅差で負けている割合がきわめて高いが、初回2位業者が初回1位業者に僅差で勝った割合は非常に低いことも確認したという。仮に初回2位だった業者が再度入札において初回1位業者がする入札金額を知らないとすると、初回2位業者は再度入札において僅差で負けることも、僅差で勝つこともあるはずだが、実際には、初回2位業者は、ほぼ確実に、しかも「僅差で確実に」負けていることが判明。この結果について研究グループは、初回2位業者が初回1位業者の再度入札で行う予定の入札金額を正確に知っていなければ簡単にはできないことであるが、もし初回2位業者が1位業者の予定する再度入札金額を知っているとすれば、なぜ初回2位業者は再度入札において僅差で負けることを選択しているのか、といった問題が生じると指摘。
これらの結果は、初回2位業者は、初回1位業者が再度入札で入札する予定の金額を知っており、さらに、初回1位業者に再度入札でも必ず勝たせるよう、業者間で事前に調整(談合)が行われていた可能性がきわめて高いことを示す証拠になるとしており、実際に談合が摘発された入札案件でもこのような動きがみられたとしている。ちなみに、同研究の調査期間中、公正取引委員会が国土交通省発注の公共工事の入札において4件の入札談合事件を摘発しており、約80の業者を独占禁止法違反で検挙していることから、そうして検挙された業者が落札した工事について、再度入札がどのように行われたかを分析した結果、上述の結果とまったく同様の傾向が見られることが確認されたとする。
これを受けて研究グループでは、調査期間中に入札に参加した業者約3万社すべてについて、再度入札においてどのように入札したかの調査を実施。具体的には、どのような業者が"僅差で確実"に負けているかについて統計的な検定を実施したという。「僅差で確実」について統計量を定義する必要があることから、「確実に」については、初回1位2位の再度入札における差に関する分布のほとんどが0より右側に来ることと定義、また「僅差」については、初回2位3位業者の再度入札における差の分布の分散との比較において定義し、この2つの定義を組み合わせて談合を識別する検定統計量を提案した。
検定の結果、再度入札において「僅差で確実に」負け続けている約1000社の業者がリストアップされた(有意水準は95%)。そのうち28業者は、調査期間中に公正取引委員会が独占禁止法違反として摘発した業者であり、この結果、これまで捜査当局などによる調査が行われなかった残りの業者についても、広範にわたって談合を行っていた可能性がきわめて高いことが示されたとする。また、この1000社が落札した工事は約7600件で、予算規模で約8600億円であることも判明したとする。
なお、研究グループでは今回の結果について、落札率の高止まりなどから談合の存在を推測するという従来の入札談合の分析方法とは一線を画すものとなっているが、入札データからの談合の分析にも限界があるとしている。その理由として、データによる分析は談合の状況証拠を示すことにとどまっている点、ならびに仮に分析の結果談合の可能性が極めて高いと判明しても、その可能性は100%ではないという点を挙げており、今回リストアップされた1000社についても、95%の確率で談合した可能性があると判明したにすぎず、談合の摘発・処罰のプロセスには公正取引委員会のような捜査当局の存在が必要であることに変わりはないとするほか、データにより的確な状況証拠の提供が可能となれば、当局の談合捜査の生産性を高めることが可能となることが期待され、将来的な競争入札における談合の抑止につながり、ひいては日本の社会資本の充実ならびに産業の健全な発展に寄与することが期待されるとコメントしている。