日産自動車と日産アークは3月13日、東京大学、京都大学、大阪府立大学と共同で、リチウムイオンバッテリーの充電、放電時の正極材中の電子の動きを直接観測し定量化できる分析手法を開発したと発表した。
高容量、長寿命のリチウムイオンバッテリーを開発するには、電極活物質にできるだけ多くのリチウムを蓄え、多くの電子を発生できる材料の設計が必要となる。そのためには、バッテリー中の電子の動きを把握することが重要となるが、これまでの分析手法では、直接電子の動きを観察できなかったため、マンガン(Mn)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、酸素(O)などといった電極活物質のどの元素から、どの程度電子が放出されているのかを定量的に識別することは不可能だった。
今回開発した分析手法は、L吸収端を用いるX線吸収分光法とスーパーコンピュータ「地球シミュレータ」を用いる第一原理計算を併用している。これまでも、X線吸収分光法を用いたバッテリーの解析は行われていたが、K吸収端を利用したものが主流であったため、電池反応に直接関与する電子ではなく、原子内に束縛された電子(原子核に近く、原子核から離れにくいため充放電に関与しない電子)しか観測できなかった。今回の分析手法では、L吸収端を利用したX吸収分光法を用いることで、電池反応に関与する電子の流れを直接観測できるようになった。さらに、「地球シミュレータ」を用いた第一原理計算を組み合わせることで、今まで間接的に推定するにとどまっていた電子移動量を高い精度で得ることが可能となった。
今回の開発は、長年の課題である、充放電時に流れる電流の起源を明らかにしながら、定量的に把握する、という手法が採られた。これにより、電池内部で起こっている現象、特に正極材に含まれる活物質の挙動を正確に把握することができ、より高性能、長寿命を可能とする電極材料の設計が可能となった。
日産アークは、同手法をこれまでの容量の約1.5倍となる高容量正極材料の有力候補として一般に期待されているリチウム過剰系高容量正極材料に適用し分析したところ、高電位状態で酸素に帰属する電子が充電反応に寄与していること、また、放電時にはマンガンに帰属する電子が放電反応に寄与していることを明確にとらえることができたという。これらの分析結果は、同正極材料の実用化、および、さらなる高容量、長寿命のバッテリーの開発に向けた大きな一歩となるとコメントしている。