宇宙線に含まれる素粒子のミューオンを使って、活火山の地下のマグマの動きを動画で初めて透視撮影することに、東京大学地震研究所の田中宏幸教授らが成功した。火山噴火予測の精度を上げる画期的な成果といえる。3月10日の英科学誌ネイチャーコミュニケーションズに発表した。
レントゲン撮影のようにミューオンで地球内部を見る手法はミュオグラフィと呼ばれ、1990年代に東京大学理学部のグループによって提案された。田中教授らが2006年に浅間山の透視を実現してから急速に発展して、世界の活火山でも観測が行われた。しかし、動画として撮影するには雑音レベルが高く、困難だった。
田中教授らは今回、雑音レベルを極限まで下げる高感度の検出器を開発した。13年6、7月に、噴火警報が出されて噴煙が 上がった薩摩硫黄島硫黄岳で約1か月間、山頂から西1.5キロに設置した検出器で地下のマグマの動きを観測した。角度分解能は1.9度で山頂下のマグマの動きを3日に1枚の透視動画として捉えた。
気象庁の望遠データと比較したところ、高さ400メートルの噴煙と、火口の真上が夜間赤く映える火映が観測された6月16日、高さ200メートルの噴煙と火映が観測された6月30日に、顕著なマグマの上昇を動画で撮影した。両日の1、2日後には、マグマの最上部が200~300メートル下がって、火道で定常状態に戻っていることも確認できた。この薩摩硫黄島内部のミュオグラフィで火山内部のマグマの挙動の3次元高速可視化が可能になった。
田中教授は「これまではミューオンでは40日に1枚しか撮影できなかった。今回は3日に1枚の撮影で、何とか動画になった。1日に1枚まで撮影できるようになれば、噴火のリアルタイム予測に近づく。そのための検出精度の向上に努めたい」と話している。