KDDIは3月10日、「陸上自衛隊中部方面隊とKDDI株式会社との間の災害時における通信確保のための相互協力に関する協定(災害協定)」を締結したと発表した。
この災害協定は、2013年11月1日に防衛省とKDDIの間で締結した「災害協定(中央協定)」に基づくもので、中部方面隊が管轄する「中部」「北陸」「関西」「中国」「四国」における相互協力を目的としている。
この地域では、大規模な震災被害を及ぼす可能性がある「南海トラフ地震」への対策が重要視されており、その他の災害時を含め、KDDIが衛星携帯電話やau携帯電話などの通信機器の優先提供を自衛隊に行なう。
一方で自衛隊は、被災地における通信手段の確保のため、KDDIに対して物資の輸送や各種施設・設備の仕様、燃料や資材、機材の貸し出しといった協力をKDDIに対して行なう。
これまでにも陸上自衛隊中部方面隊は、NTTグループや関西電力などと災害協定を結んでおり、インフラの早期復旧への全面支援を図っていく。なお、これらの支援は、人命救助活動を妨げるものではなく、救助活動後に順次インフラ復旧の支援が行なわれていくという。両者は災害時にスムーズな連携を図るため、情報共有や協同訓練を年1回以上実施していく予定だ。
南海トラフ地震への対策をしっかりと
会見後、KDDIは記者説明会を開き、中部方面隊との災害協定を結んだKDDI 関西支総支社長 兼 四国総支社長の長尾 毅氏と、技術統括本部 運用本部 運用品質管理部で特別通信対策室長を務める木佐貫 啓氏が災害に対する取り組みの説明を行なった。
長尾氏は初めに、2011年3月11日を振り返り「私は当時、関西総支社長の内示を受けており、震災対応でばたばたしている中でこちらに着任した」と振り返る。その経験を踏まえた上で、「関西の懸案事項である『南海トラフ地震』への対策は重要だと考えている。そのために、自衛隊と協議を進めてきた」と説明した。
自衛隊の中部方面隊は、中部地方から四国・中国地方まで広くカバーしているため、KDDIも関西総支社や中部総支社、中国総支社、四国総支社がまとまって災害協定を結んでいる。窓口役は関西総支社だが「各地に運用保全、建設部隊が居るし、実際に動いていくのは彼ら。密接に自衛隊との協力を行なっていきたいし、訓練も含めて更なる対策を進めていきたい」と長尾氏は話した。
続いて技術統括本部の木佐貫氏が災害対策の詳細を説明。
木佐貫氏によると、通信事業者の震災被害は大きく5つに分けられるという。「局舎通信設備の損壊」と「ケーブル切断や管路の破壊」「交換局への電源供給停止」「通信の輻輳」「復旧作業を行なうための道路網の寸断」。このうち、自衛隊との災害協定で一番効果が見えてくるのが道路網の寸断対策。これまでは私道などの倒壊した建物を勝手に退かせて復旧作業に向かうことはできなかったものが、自衛隊による道路網の復旧によって基地局に到達しやすくなるという。もちろん、先のスライドにもあったような、ヘリコプターによる可搬型基地局の運搬も行えるため、早急な通信網の回復が期待できる。
ただ、それ以外については復旧作業員の移動などの援助は自衛隊の協力によって行えるが、あとはKDDIとしての震災対策にゆだねられる部分が大きい。例えば、局舎通信設備の損傷は、東日本大震災でも津波などで大きなダメージを受けていた。地震には耐えられてものの、津波や電源の喪失など、外的要因によるものが大きく、対策がし辛い面もあるようだ。
もちろん、何も対策をしないわけではなく、津波に対しての防潮堤の設置や、施設の奥地への移動。電源の喪失対策では、ソーラー発電を組み合わせたトライブリッド基地局の配備や全国2000局での24時間稼働できるバッテリーの強化、移動電源車や可搬型発電機の増強、配備が行なわれている。
無線部分だけの対策だけではなく、基幹ネットワークの災害対策も進めている。東日本大震災では、地震による光ファイバーケーブルの切断で北海道と東京を結ぶ2本のネットワークが共に断線してしまっていた。そこで、KDDIは日本海側ルートを新設して3ルートにネットワークを増強。他社の伝送路も活用して、災害に強いネットワーク作りを進めるという。
ほかにも、震災時には人的リソースや指揮系統の混乱が起きる可能性があるため、BCPを遂行するために、設備監視体制をこれまでの関東一極集中から、関東と関西の2カ所に分けることで、監視機能の分散化を図るという。また、被災地の状況を迅速に把握するための「DRSシステム」を活用し、平常運用ができている基地局と障害が起きている基地局(エリア)を一目で視認できるようにした。これは、基地局が「バッテリー作動状態」「停電状態」「設備を失っている状態」などを色で表わし、分かりやすく事態を把握できるように組んだシステムだという。このマップと災害避難所の位置を照らしあわせて通信ができる状況か確認し、国や地方自治体、自衛隊との情報共有をスムーズに行なう。これにより、通信断絶地域の早期復旧が図れるとしている。
東日本大震災の時とは異なる通信状況
東日本大震災を踏まえた対策が進む中で、予測が難しい部分がある。それが「通信の輻輳」だ。通信会社では、災害時に平常時の数倍~10倍程度に増える音声発信を制御することで、ネットワーク全体がパンクしないように保全している。東日本大震災では、呼量(発話する量)が大きく跳ね上がった一方、データ通信はむしろ平常時よりも少ない傾向が見られたという。
木佐貫氏は推測として「安否確認を取ろうとして電話をかけるケースが多く、データ通信は行なわれなかったのではないか」と分析。ただし今後、災害が起こった場合には、同じようになるとは限らないのではないかと語る。
「3年前にはなかったLINEなどのメッセンジャーアプリの存在がある。花火大会や"あけおめメール・コール"のトレンドを見ていても、音声通話からデータトラフィックへと移り変わりが見えている。これらの傾向を踏まえると、平常時の2倍にいたってもおかしくないのではないか」(木佐貫氏)
こうしたトレンドの対策としては、LTEネットワークの増強を図っていくとしていた。