海洋研究開発機構(JAMSTEC)は、マルチビーム音響測深機を使った高速広域探査により、わずか1日半で新しい熱水域2カ所を中部沖縄トラフで発見した。この新しい探査法が従来よりも簡単で、効率的に海底の熱水域を見つけ出すことを実証した。改良すれば、海底熱水鉱床の分布・規模の把握と成因の解明にも役立つと期待されている。

図1. 中部沖縄トラフの調査海域

沖縄本島から北西約150キロの中部沖縄トラフでは、1995年に伊平屋北(いへやきた)熱水フィールドが発見されてから研究が続けられてきた。2010年には地球深部探査船「ちきゅう」で掘削して、世界で初めて海底下熱水変質硫化鉱物(黒鉱)を採取した。現在までこの海域で報告されている深海熱水域は8カ所で、短期間に簡単に探査できる方法が求められていた。

同機構の海底資源研究プロジェクト海底熱水システム研究グループ(高井研グループリーダー)は、船に搭載するマルチビーム音響測深機を使い、対象海域を広域かつ高速で調査し、熱水が存在する場所を絞り込む新しい探査法を確立した。この方法なら、船を走らせるだけで、1日当たり200平方キロの海底を調査することができる。

図2. 「なつしま」の音響調査で検知した熱水プルーム(赤で囲んだ部分)。
左が伊平屋北ナツサイト、右が伊平屋北アキサイト

まず海洋調査船「なつしま」が13年11月、中部沖縄トラフの水深約1000メートルの伊平屋北海丘で音響調査を行った。さらに13年12月、自律型深海無人探査機「うらしま」が音響探査と化学センサーで海底地形と熱水噴出シグナルを絞り込み、延べ1日半という短期間で新たな2カ所の熱水噴出域を発見するのに成功した。

図3. 伊平屋北ナツサイトの海底写真。化学合成生物からなる生物群集と、熱水を噴出する熱水マウンド
(以上の提供:海洋研究開発機構)

それぞれ伊平屋北ナツサイト、伊平屋北アキサイトと名付けた。いずれも300度以上の熱水を噴出する大きな熱水マウンドや、多様な化学合成生物からなる生物群集があった。見つかったのが最も古い伊平屋北オリジナルサイトからは南に1.2キロと2.6キロ離れており、3キロ以上の広がりがある巨大な海底熱水域の存在が浮かび上がった。

図4. 「第七開洋丸」からの計量魚群探知機で捉えられた沖縄県硫黄島周辺海域のプルーム状の音響異常。
左が水深200メートル以浅の海底火山山頂からの熱水活動、右が火口状地形で確認された熱水活動
(提供:産業総合技術研究所)

高井リーダーは「今あるマルチビーム音響測深機を活用して、画期的な探査法ができた。これまではランダムに探していたが、この方法を使えば、5年間で200~300個の熱水域が発見できるだろう。音響測深機の探査は漁船でもできる。みんなが参加できる、海底の宝探しになる」と新しい探査法の意義を語っている。

また、産業技術総合研究所地質情報研究部門の下田玄・資源テクトニクス研究グループ長らは昨年秋に同じような手法を使い、海洋調査船「第七開洋丸」から調査し、沖縄トラフの沖縄県硫黄島西方の水深約200メートルより浅い海底で火山を発見した。火山防災の観点から、気象庁火山噴火予知連絡会や海上保安庁にも報告した。さらに同島北方では、多金属塊状硫化物の生成を伴う熱水活動域も見つけた。海底のあちこちで熱水がわき出す沖縄トラフは、地球科学研究や探査でもホットな海域となりつつある。