千葉工業大学(千葉工大)は3月10日、約6550万年前の白亜紀末に発生した生物の大量絶命の原因として、隕石の衝突によって生じた酸性雨が地球全域に降り注ぎ、それに伴って海洋が酸性化(海洋酸性化)し、海洋酸性化に敏感な石灰質ナノプランクトンの死滅による食物連鎖を引き起こしたことを宇宙速度での衝突蒸発・ガス分析実験により示したと発表した。

同成果は同大惑星探査研究センターの大野宗祐(上席研究員)、産業医科大学の門野敏彦 教授、東京大学の杉田精司 教授らによるもの。詳細は英国学術雑誌「Nature Geoscience」オンライン版に掲載された。

白亜紀末の生物の大量絶滅の原因として、1980年に巨大隕石が衝突したことによるもの、という説が提唱されて以降、この説は広く支持されるようになっているが、具体的に、天体衝突がどのような環境変動を引き起こし、それがいかにして大量絶滅をもたらしたのか、といった詳細なメカニズムについては、さまざまな仮説が立てられ議論が繰り広げられてきた。

こうした議論において、もっとも重要なカギとなるとされているのが、陸上だけでなく海洋でも大量絶滅が発生しているという点。海洋は陸上と比較して温度変化が起こりにくく、これまでに提案されていた環境変動の仮説で海洋の絶滅を説明することは困難であったほか、絶滅率が海洋表層で高く底層では低いという特異なパターンを示すことが知られていることから、海洋の絶滅を解明することが白亜紀末の生物大量絶滅を理解する上での最重要課題となっていた。

特に、海洋プランクトンは広範囲に分布し食物連鎖の基底をなしているため、生物大量絶滅の指標として最も有効であり、その議論が繰り広げられてきたが、従来提案されてきた仮説では、地質記録に残る海洋生物の絶滅を説明することは困難で、最大の未解決問題とされていた。

そこで研究グループは今回、この謎の解明に向け、巨大隕石の衝突地点であるメキシコ・ユカタン半島の地質に注目したという。同半島には、硫黄を含む岩石が大量に存在しており、それが隕石衝突のエネルギーで蒸発し、酸性雨の原料となる硫黄酸化ガスが大気中に爆破区的に放出されたと考えれられている。そこで、今回、大阪大学レーザーエネルギー学研究センターの高出力レーザー激光XII号を用いて、隕石の地球落下速度に近い宇宙速度(秒速11.2km・試料サイズは0.1mm以上)での衝突蒸発・ガス分析実験を実施。高速衝突により生成した硫酸塩岩(衝突地点にある岩石)蒸気の化学組成を、四重極質量分析計を用いて分析した結果、先行研究で想定されていた二酸化硫黄(亜硫酸ガス)ではなく、硫酸になりやすい三酸化硫黄(発煙硫酸)が隕石衝突で放出されることが確認されたという。

さらに理論計算を行ったところ、衝突で放出された三酸化硫黄は数日以内に酸性雨となって全地球的に降ることと、その結果、深刻な海洋酸性化が生じることが示されたという。

なお、研究グループは今回の成果について、酸性雨と海洋酸性化が白亜紀末の大量絶滅で非常に重要な役割を果たしたことを示唆し、海洋をはじめ陸上や淡水中を含めた白亜紀末の生物大量絶滅を初めて包括的に説明するものだと説明している。