日本原子力研究開発機構(JAEA)は3月4日、次世代原子炉技術の1つである「高温ガス炉」と、これによる水素製造技術の今後の研究開発の在り方の検討に向け、外部有識者からなる「高温ガス炉及び水素製造研究開発・評価委員会」の評価を受け、その評価結果を公開報告書としてとりまとめたことを公表した。

高温ガス炉は、冷却能力の喪失、冷却材の喪失のような事故時においても、人の手を介さずとも、自然現象だけで止める、冷やすことができる設計が可能で、炉心溶融が起きないなどの本質的な安全性を有する原子炉。その理由としては、熱容量の大きい黒鉛が炉心構成材として使用され、低出力密度(軽水炉に比べ1桁程度低い)を採用した炉心設計により、事故時の温度挙動が緩慢であり、崩壊熱は黒鉛の高い熱伝導、原子炉圧力容器外側からの熱放射、大気の自然対流によって原子炉圧力容器外に除去することが可能であること、ならびに耐熱性に優れたセラミック四重被覆粒子燃料を使用することにより、1600℃を超える温度範囲まで放射性核分裂生成物を完全に閉じ込めることが可能であること、冷却材にヘリウムガスを用いるため、沸騰などの相変化がない。このため、流量が喪失するような事故時において制御棒が挿入できない原子炉スクラム失敗が起きた場合においても、燃料温度の上昇により、核分裂反応が抑制され、原子炉は停止レベルの出力まで自然に低下し、燃料の健全性を損なうことなく静定するといったことが挙げられるという。

実際にJAEAでは高温ガス炉の固有の安全性について、1998年より高温ガス炉「高温工学試験研究炉(HTTR)」を用いて確証を進めてきており、2001年12月に熱出力30MWおよび原子炉出口冷却材温度850℃、2004年4月に原子炉出口冷却材温度950℃、2010年3月に950℃、50日間高温連続運転を達成している。

評価委員会は佐賀大学大学院工学系研究科の門出政則 教授(佐賀大学海洋エネルギー研究センター長)を委員長とするもの。実際の評価は専門家で構成される中期計画研究評価専門部会(部会長は東京大学大学院工学系研究科原子力専攻 専攻長の岡本孝司 教授)にて実施され、今後実施すべき研究開発や検討すべき課題などについて評価が行われたという。

その結果、日本の熱利用産業・運輸部門における炭酸ガス排出量低減に貢献するため、原子力エネルギーによって熱需要に応えるという目標は重要であり、原子力の中で最も有望な技術の1つである高温ガス炉とこれによる水素製造技術を日本が持つことが必要であるという評価を得たほか、高温ガス炉とこれによる水素製造に関する基盤技術の確立を目指し、950℃の超高温ガス炉に向け、HTTRなどを用いた研究開発を行うべきであること、ならびに750℃の高温ガス炉のリードプラントの建設、950℃の超高温ガス炉に向けた研究開発を産業界など関係各所と連携しつつ推進していくことが重要であるとの指摘を受けたとする。

また、原子力水素製造(HTTR-IS)試験計画については、水素社会への日本の対応状況に即した取組が必要であるとの意見や、HTTRは、国際共同研究および国内外の高い専門性を有する原子力人材の育成などの目的にも、積極的に有効利用すべきであるとの意見もあり、JEAEではこうした評価を、今後の高温ガス炉とこれによる水素製造技術に関する研究計画を定めるにあたって活用していく予定だとしている。

高温ガス炉技術および水素製造技術の概要