ほ乳類の恋の謎を解く物質が見つかった。雄が放出して雌の脳の生殖中枢を刺激するフェロモンがほ乳類にもあることを、東京大学大学院農学生命研究科の森裕司教授や武内ゆかり准教授、大学院生だった村田健さんらがヤギで発見した。このフェロモンが4エチルオクタナールという新しい揮発物質であることも突き止めた。生殖中枢活動を促すフェロモンは昆虫などでは知られているが、ほ乳類で同定されたのは初めてという。ほ乳類のヒトにも似たフェロモンがあるかもしれない。

図. ヤギの“雄効果”フェロモンの仕組み

研究グループは、ヤギの雄のにおいが雌の排卵や発情を刺激する“雄効果”現象に注目した。ほ乳類では、雌の脳の視床下部より放出される性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)がパルス的に分泌されて生殖活動が促進される。まず、雌の視床下部の神経活動を電気生理学的に記録するバイオアッセイ(生物活性判定法)を確立した。この方法で、雄の頭頸部が産生して頭皮から放出する揮発性物質が性フェロモンとして作用することを確かめた。バイオアッセイで活性成分が4エチルオクタナールであることまで絞り込んだ。自然界で初めて見つかった物質で、「ヒトを含めた哺乳類の生殖機能障害の新しい治療法につながる」と期待される。

森裕司教授らはウシやブタなど家畜の繁殖障害研究にも取り組み、それぞれの“雄効果”フェロモンを分離して、実用化を目指している。この発見は東大農学部の動物行動学研究室と有機化学研究室、農業生物資源研究所、長谷川香料株式会社総合研究所との共同研究によるもので、2月27日の米科学誌「カレント・バイオロジー」オンライン版に発表した。

武内ゆかり准教授は「約20年の研究でようやく物質までたどり着いた。このフェロモンが脳の生殖中枢にどのように効くのか、詳しく調べて、ほ乳類に共通する雌の生殖機能促進の仕組みを明らかにしたい。フェロモンは動物種ごとに特有なので、このままではヒトには効果がない。ただ、ヒトにも同じようなフェロモンが存在する可能性はある」と話している。