Cypress Semiconductorは2月25日(独時間)、独ニュルンベルクにて開催されている「Embedded World 2014」にて同社の静電容量タッチボタン向けCapSenseコントローラソリューションの1ファミリであるメカニカルボタンリプレースメント(MBR: Mechanical Button Replacement)ファミリの第3世代品「CY8CMBR3xコントローラ」を発表した。
これに併せ、同社日本法人である日本サイプレスで同ソリューションを担当している応用技術部の全英守 部長に詳しい話を聞いたので、それを元に同ファミリの特長をお届けしたい。
同社の静電容量タッチセンシングソリューションは大きくタッチパネル向けソリューション(TrueTouch)とタッチボタン向けソリューション(CapSense)に分けることができる。ここで語るタッチパネルとは一般的な液晶パネルなどの座標を検出して、マルチフィンガータッチなどを実現するものであり、一方のタッチボタンは、既存の機械的なボタン(スイッチ)を静電容量方式のタッチセンサで置き換えたもので、同社では「CapSenseボタン(静電容量ボタン)」と呼んでいる。
世界では年間100億個程度の機械式ボタンが何らかの機器で用いられているが、ユーザインタフェースやデザイン性を向上したいというニーズから、機械的なボタンをほかのソリューションに置き換えようという動きがあり、そうした動きの1つに静電容量ボタンへの置き換えがある。
ただし、機械式ボタンを静電容量ボタンに置き換えるためには、まずデザインを置き換え、静電容量ボタンに対応するためのコンフィギュレーションを行い、各ボタンにそれぞれの機能を実現するためのパラメータを与え、その後、ボタンのチューニングを行い、実際の利用に向けた最適化を行っていくという手順を踏む必要があり、そのインプリメントには技術的な専門性が求められるほか、湾曲したり厚いオーバーレイではSNR(信号雑音比)が減少してしまい、その対応のための綿密なチューニングが必要という課題などがある。
こうした開発のフローにおいてコンフィギュレーションは、ボタンのパラメータであるボタン数や防水性、センサの感度などを決定するうえで重要な工程であり、このファームウェアが製品としての性能を左右すると言っても過言ではない。今回のCY8CMBR3xコントローラは、静電容量ボタン向けファミリの第3世代品であり、 同社のプログラマブル システムオンチップ「PSoC 4」と同等のエンジンを使用していることもあり高い処理性能を提供しているため、かなり高性能なアルゴリズムが採用されており、ほぼ1回のコンフィギュレーションで実用レベルの動作が可能になるという。
また、そのコンフィギュレーションそのものも、機器の使用条件が特殊な場合や劣悪な環境下で動かすために独自の開発が必要になるが、無償で提供されているPCベースの開発支援ツール「EZ-Click」を用いることで、ファームウェアの開発を行うことなく、ボタンやパラメータを設定するだけで、手軽に特定機能を組み込むことが可能となっている。
さらに、CY8CMBR3xコントローラではGPIOの制御も可能なため、近接センサやLEDの点灯、タッチボタンを利用するうえでノイズとなる水滴に対する防水性を確保する「シールド電極」や水流の検知を行う独自機能「ガードセンサー」など、タッチボタンを採用したシステムが基本的に使うであろう機能も含めてファームウェアの開発なしで容易に設定することが可能。こうした各種のパラメータは、前述のEZ-Clickを用いることで、手軽に設定できる。
EZ-Clickは、各種ウィンドウを提供しているが、デバイスの選択、ボタンやスライダー/LED/近接センサなどの数の設定、GPIO経由によるLED制御や防水性の実現のほか、SNRなどのシステム性能データの確認、プロトタイプ/量産での検証実施を行うためのコンフィギュレーション設定などを、それぞれ専用に用意されているウィンドウ上で容易に行える。
コンフィギュレーションを終えると、その次の工程としてチューニングを行うわけだが、基本は製品が量産された場合などの各種のマージンを取った調整を行うといった工夫が必要となっている。もし製品の量産段階にファームウェアに修正をする必要が生じれば、大幅な手戻りとなり、最悪の場合、製品の発売日が遅れたりするなどの問題が生じることもある。こうしたチューニングの手法としては、開発者が一から調整していくマニュアル手法もあるが、CapSense MBR3では、「SmartSenseオートチューニング」という機能が提供されている。これは前段のコンフィグ情報を元に、製品のバラつきや周辺環境情報、静電容量ボタンの性能低下要因であるプリント基板やオーバーレイ、ペイント、製造時の設定などを電源が入るたびに自らが判断して、常に最適な数値を導き出す機能であり、これにより、従来、諸々の項目をマニュアルチューニングで逐一設定していたところを1パスで実現できるようにし、開発期間の大幅短縮を可能とするものとなっている。
また、このSmartSenseオートチューニングは、同じシステム要件(ボタンの数やスライダーの数が同じ)であれば、機種サイズが異なる複数のラインアップであっても、1機種だけ設定しておけば、残りの機種はその環境の変化を自動で検知し、自らの判断で最適化を施してくれるため、複数機種の設計工数の削減も図ることができる。
SmartSenseオートチューニングにより、マニュアルチューニングを行うことなく各環境下における最適なチューニングや同一構成要素のコンポーネントを用いた異なる製品などでの再設計を不要にすることができる |
ちなみにプロトタイピング向けに25ドルでArduino互換の拡張コネクタを備えた評価キット「CY3280-MBR3」も提供されている。同評価キットは、LEDボタンと組み合わせが可能な静電容量ボタンが4個あるほか、近接センサ、2mmのオーバーレイなどが搭載されており、EZ-Clickと組み合わせることで、実際の指のタッチ/非タッチ時のSNRの評価や、さまざまなコンフィグパターンで、どういった結果が出てくるのか、といったことを簡単に知ることができるようになる。
なお、CapSense MBR3ファミリの動作電圧は1.71~5.5Vで、ボタン電池1個で駆動する低消費電力アプリケーションのような電圧が安定しないアプリケーションでも安定した動作を実現できる。また製品ラインアップとしては、ボタンの数や制御可能なLED/スライダーの数などにより異なる7製品が用意(性能などにより8ピンのSOIC、16ピンのQFN、16ピンのSOIC、24ピンのQFNパッケージの4種類のパッケージが用意)されており、いずれも2014年3月中旬より量産を開始する計画だという。