東北大学は2月27日、イネの冷害の発生メカニズムを明らかにし、植物ホルモンの1つであるジベレリンによって冷害を防ぐことに成功したと発表した。

成果は、東北大学大学院生命科学研究科教授の東谷篤志氏らの研究グループによるもので、米国の植物生理学誌「Plant Physiology」のオンライン版に2月25日付けで公開された。

北海道、東北、関東にかけての太平洋側の地域では、春から夏にかけて「やませ」と呼ばれるオホーツク海からの冷たく湿った風が吹き込み、イネの低温障害(冷害)が発生し、大きな問題となっている。イネ冷害の克服を目指す研究の歴史は古く、宮沢賢治の「雨ニモマケズ」の一節にも「サムサノナツハオロオロアルキ」と記されている。

研究では、葯(やく)の全ゲノム遺伝子の発現変動の解析した結果、植物ホルモンの1つであるジベレリンの生合成酵素遺伝子が冷温により発現低下することで、葯の活性型ジベレリン含量が低下し、不活性型の前駆体ジベレリンが溜まることがわかったという。

ジベレリンとは、植物の伸長成長や細胞の分裂や増殖、組織や器官の発生・分化に必要な植物ホルモンのこと。同研究グループは、ジベレリン量の低下が花粉始原細胞の増殖や葯壁細胞の発生プログラムに悪影響を及ぼし、冷害をもたらすと考えに至った。また、ジベレリン応答に欠陥がある変異体やジベレリン生合成活性を抑え草丈を低くした「緑の革命」形質を持つイネなどは、冷温の状態で弱くなることからジベレリン低下と冷害発症リスクの関連性がわかったという。

同研究グループは、イネの花粉が形成される時期にジベレリンを外から投与したほか、糖を加えた。すると、冷温下でも花粉をつくる能力が維持され、収量の低下を抑えることに成功したという。

なお、イネの冷害対策にジベレリンを用いた実験で「投与によって冷害を助長する」という、今回の研究とは逆の見解を示した報告もある。同研究グループではその研究に対して、「ジベレリンの投与時期が花粉が形成される前の幼穂形成期であり、逆に負の効果が生じていたものだ」と見解を述べている。