プロトタイピング(試作)および製造用3Dプリンタメーカー世界大手の米ストラタシス社が、日本市場でのプレゼンス強化に注力している。2013年に日本法人ストラタシス・ジャパンを完全子会社化する一方、2014年1月には日本における有力販売代理店アルテック出身の片山浩晶氏が社長に就任。3Dプリンタを含む産業機械の輸入業経営や中国製造業の実情に詳しい片山氏の社長就任で、製造業の現場のニーズと代理店、そしてメーカーの"三位一体"体制の拡大に弾みをつける。
ものづくりのコミュニケーションツールへと変ぼうしている3Dプリンタ
3Dプリンタは、販売価格が20万円を下回るパーソナル向け製品が市場に出るようになって急速に認知度が向上したが、工業用としてはすでに1990年代前半から利用されてきた。当初は、プロトタイピングの金型製作コストの削減を主な目的として導入されていた。しかし、性能向上と価格低下が進み、片山氏によれば「最近は、開発ツールとしてだけでなく、コミュニケーションツールとしても活用されるようになってきている」という。3Dプリンタで作られた試作品が、開発技術者だけでなくマーケティング部門、経営層、さらに顧客にも「サンプル品」として提供されて評価の交流や共有が進み、新製品や新技術の開発に劇的な変化が起きているのである。「具体的なブツ(もの)があることで、それ自身がコミュニケーションのツールとなり、関係者による改良点の検証や決済が早まり、製品をいち早く市場に投入できるのです」(片山氏)。
また、3Dプリンタはものづくりの国際分業体制にも大きな影響を与えている。従来のグローバルなものづくり体制では、日本などで開発された製品に応じて海外生産が準備されていた。これに対してデジタルデータをベースとする3Dプリンタを活用すれば、海外の生産現場でもデータを得ることでプロトタイピングができ、製品開発の初期段階から本格的な生産設備などを検討できるのである。
DDMを支えるストラタシスの造形技術
片山氏は「世界のものづくりはDDM、つまりダイレクト・デジタル・マニュファクチャリングに向かっており、この流れを支えるための品質精度やものづくりのニーズにきめ細かく応えられる技術を用意してきました」と語る。
ストラタシスの工業用3Dプリンタの造形は、「PolyJet(ポリジェット方式)」と「熱溶解積層法(FDM方式)」の2つが中核の技術。PolyJet方式とは、ノズルから液体の光硬化性樹脂を噴射しながら造形するもので、表面が滑らかな高精細モデルを製作できたり、幅広い造形材料のバリエーションをもつ。一方のFDM方式は、熱可塑性樹脂をヒーターの熱で溶解して積層しながら立体形状を作るもので、高い負荷を受けるような機能試験や、最終製品を直接作るといった使い方を可能としている。
さらに、ストラタシスは造形用の樹脂そのものの開発メーカーという顔も持っている。コストや加工速度、汎用度などが異なり、その上で粘り強さや静電気特性、透明性、生体適合性、耐熱、耐薬品性など見た目や質感の異なる樹脂を多数用意している。
「ストラタシスは、さまざまな現場で活用できる技術的な広さを備えています。それは開発現場の自由度を保証するものであり、アイデアをアイデアにとどまらせない柔軟性を備えているのです」(片山氏)。
製造業以外への分野へと活用の幅を広げる
工業用3Dプリンタの活躍の場は、さらに広がりを見せている。一つが製造業現場での新たな活用方法だ。従来、3Dで作られるのは試作品が中心だった。しかし、利用できる熱可塑性樹脂の拡充により、生産現場で使われる治具そのものも3Dプリンタで製作できるようになってきた。いわゆる「ラピッド・プロトタイピング」だけでない、「ラピッド・ツーリング」への広がりだ。ラピッド・ツーリングへの広がりは、3Dプリンタ市場の拡大にとどまらず、CAD/CAMと連携した最適な治具づくりという変革力を秘めている。
もう一つが製造業以外での利用だ。例えば、エンターテインメント分野では人の名前を刻んだドリンク・ボトルを作るといったアイデアが示されている。つまり、自分の名前が刻印されたコーラのボトルを手にすることができるといったイメージだ。「従来のボトルづくりは、金型製作だけででも一カ月近くを要していましたが、3Dプリンタならば一晩で製作が可能です」(片山氏)
なお、今後はCTやMRIスキャンのデータから実際の身体や臓器の一部を造形して立体物にするなどの医療分野での活用が期待されており、ますます目が離せない存在となりつつある。
ものづくりの現場を知る代理店とメーカーとの連携こそ、競争優位を生む
工業用3Dプリンタの活用拡大をリードするのが、ものづくり大国の日本だ。片山氏は、「あらゆる分野において品質に対する要求が厳しく、それだけにイノベーションへの機会に満ちているのが日本市場です」と語る。だからこそ、「3Dプリンタの普及と活用のためには、ものづくりの現場を熟知している販売代理店の活躍が不可欠であり、代理店出身の私が社長に指名された理由も、販売代理店との関係強化を進めるためであると考えています」とも言う。
ここ数年、工業用3Dプリンタの日本市場での売上は、高い伸び率を続けている。しかし片山氏は、「売上の単なる拡大に終始せず、ものづくりのニーズを取り入れて技術革新を図り、最適なサポート体制を構築することが重要です」と強調する。ストラタシスは今年度の事業方針として、「革新的な方法でものづくりを支え、生活を形づくっていく」を掲げた。その取り組みは、日本でこそ鍛えられていくと言っても過言ではないようだ。