岡山大学は2月20日、米・国立衛生研究所との共同研究により、「樹状細胞」に発現し病原体などの抗原提示を担うタンパク質である、「主要組織適合抗原クラスII(MHC-II)」の、細胞における輸送と分解の制御機構を解明し、役割を終え不要になったMHC-IIが積極的に分解されるのに対し、病原体を結合する前の前駆体MHC-IIは分解されないことを見出し、そのメカニズムを明らかとしたと発表した。
成果は、岡山大 医歯薬学総合研究科 生体応答制御学分野の古田和幸助教、国立衛生研究所のPaul Roche博士らの国際共同研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、米科学雑誌「米科学アカデミー紀要(PNAS)」2013年12月10日号に掲載された。
生体内に細菌やウイルスなどの病原体が侵入したり、がん化した細胞が発生したりすると、それらを排除するために、まず樹状細胞がそれらを取り込み細胞の表面に提示する(抗原提示)。これをT細胞が認識することで病原体に特異的な免疫応答が誘導され、生体は病原体を排除するという仕組みだ。
この時、樹状細胞に発現し抗原を提示するタンパク質がMHC-IIである。抗原を結合したMHC-IIの形成は、「小胞輸送」という細胞内での物質輸送の機構によって制御されている。すなわち、抗原を結合する前の「前駆体MHC-II」と細胞外から取り込まれた病原体などの抗原が、細胞内を輸送され会合することで、抗原を結合したMHC-IIを形成するというわけだ。この抗原を結合したMHC-IIは細胞表面へと輸送され、T細胞に抗原を提示し、その後に抗原を結合したMHC-IIは、役割を終え不要になると分解されるのである。
これまでに抗原を結合したMHC-IIの分解については、タンパク質「MARCH-I」が、「ユビキチン」という分解の目印となるタグをMHC-IIに付加する必要があることが明らかとなっていた。一方、抗原を結合する前の前駆体MHC-IIには不必要な分解が起こらず、それはユビキチンが付加されないためであると予想されていたが、細胞内において、前駆体MHC-IIと抗原を結合したMHC-IIが区別される詳細な機構は不明だった。
研究チームは今回、前駆体MHC-IIに結合している膜タンパク質「インバリアント鎖」が前駆体MHC-IIの輸送を制御することで、前駆体MHC-IIがMARCH-Iの存在する場所へと輸送されないために前駆体MHC-IIにはユビキチンが付加されず、前駆体MHC-IIは分解されないことを明らかとしたのである。
画像1が今回の成果によるMHC-IIの細胞内輸送モデルで、まず(1)だが、こちらは前駆体MHC-IIは「クラスタリン依存的」な輸送によって抗原の存在する顆粒へと輸送され、そこで成熟体MHC-IIとなる。この輸送過程にはMHC-IIをユビキチン化するMARCH-Iは存在しないのでMHC-IIは分解されない。
続いて(2)は、成熟体MHC-IIはクラスタリン非依存的な輸送経路でMARCH-Iの局在する「エンドソーム」(細胞小器官の1種で、細胞内に存在する細胞外物質を取り込む小胞)へと輸送されてユビキチン化される。ユビキチン化はMHC-IIを分解する目印として働き、MHC-IIは分解されるというわけだ。
MHC-IIによる抗原提示は、生体に有害な細菌やウイルスなどの病原体や、がん細胞の排除に重要な役割を持つことが知られている。そのため、今回の研究成果はこれらの病態の原因を解明する新たな手がかりとなることが期待されるとしている。