名古屋大学(名大)は2月20日、大脳新皮質の神経細胞がどのような構造で「軸索」を形成するのかを明らかにしたと発表した。
成果は、名大大学院 医学系研究科 神経情報薬理学分野の貝渕弘三 教授、同・難波隆志 特任助教らの研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、米国東部時間2月19日付けで米科学誌「Neuron」電子版に掲載された。
ヒトの脳の高次機能を司る大脳新皮質の神経細胞は、「樹状突起」と軸索という形態的にも機能的にもまったく異なった2種類の突起を持っている。神経細胞は樹状突起でほかの神経細胞からの情報を受け取り、軸索を介してその情報をまた別の神経細胞へと伝達する仕組みだ(画像1)。このようにして多数の神経細胞がお互いに接続し合い、適切な神経回路を形成しているのである。
神経細胞の突起形成に何らかの異常が生じると、神経細胞は適切な神経回路を形成できなくなってしまう(画像2)。その結果、最終的に神経発達障害やてんかんなどの精神・神経系の病気の原因となる可能性が示唆されている。よって、未熟な神経細胞がどのようなメカニズムで軸索を伸ばすのかは、神経科学の大きな課題であり、これまで、多くの研究者が「細胞内」の遺伝子やタンパク質に着目して研究を進めてきた。しかし、今もって生体内で神経細胞がどのように軸索を伸ばすのかは解明されていないのである。
神経細胞が樹状突起と軸索をどのように形成するのかについては、これまでに多数の研究者が能から取り出してバラバラにした神経細胞を、培養皿の上で人工的に飼育した培養条件下において、神経細胞の突起形成過程の研究を行ってきた。培養条件下で神経細胞はまず複数の未熟な突起を伸展させ、その後にその内の1本を急速に伸展させ、最終的に軸索とする。残りの突起はしばらくしてから樹状突起へと変化する仕組みだ。しかし、前述したように生体内でどのように神経細胞が軸索と樹状突起を形成させていくのかは未解明なままだ。
生体内では神経細胞は多種多様なほかの細胞に囲まれながら存在しており、培養条件下とはまったく異なったメカニズムがあることが予想されるという。今回の研究では、そうした生体内での軸索形成過程が注目され、その分詩的なメカニズムの解明を目的として進められたのである。
研究チームは蛍光タンパク質を用いてマウス生体内の神経細胞を標識し、その軸索形成過程の詳細な解析を実施した。その結果、未熟な神経細胞はまず複数の突起を伸ばすことが判明。そして、その内の1本の突起が早生まれの神経細胞由来の軸索と密に接触すると、その突起は急速に伸長し、最終的に軸索になるという現象がとらえられたのである。
未熟な神経細胞と早生まれの神経細胞の相互作用には、「細胞接着分子」(細胞同士をつなぎ合わせる役割を持つタンパク質)が重要であると考えられるという。研究チームは、その中でも「TAG-1」という細胞接着分子に着目。未熟な神経細胞に発現しているTAG-1を実験的に除去すると、軸索形成が大幅に遅れることがわかったのである。このことにより、TAG-1を介した細胞間相互作用が未熟な神経細胞の軸索形成に必要であるということがわかった(画像3)。
今回の成果により、細胞間相互作用が未熟な神経細胞の軸索形成に必要であることが判明した。軸索形成は神経回路形成の根本的なメカニズムの1つであり、軸索形成の異常は神経回路形成の異常に直接結びつくと考えることができるという。神経回路形成の異常が神経発達障害やてんかんの一因であることが示唆されていることから、今回の研究で解明した生体内における軸索形成のメカニズムは、異常な神経回路形成がどのようにして起こるのかを理解する上で重要な情報を提供すると考えられるという。また、今回の研究で新たな機能が判明したTAG-1は、転換などとの関連が示唆されており、それらの病因と軸索形成異常の関係を今後、さらに詳しく調べていく予定とした。