理化学研究所(理研)は2月20日、米・カリフォルニア工科大学などとの共同研究により、代表的な超新星残骸の1つである「カシオペア座A」が超新星爆発を起こした時に生成された元素の内、チタンの放射性同位体「チタン-44」が放出した高エネルギーX線による鮮明な天体写真の撮影に成功し、超新星爆発が従来説の「球対称」や「軸対称」爆発ではなく、非対称な爆発だったことを明らかにした発表した。

成果は、カリフォルニア工科大学のブライアン・グレフェンステット博士、同・フィオナ・ハリソン教授と、理研 仁科加速器研究センター 玉川高エネルギー宇宙物理研究室の北口貴雄特別研究員らの国際共同研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、英科学誌「Nature」2月20日号に掲載された。

研究チームが開発したのは、68および78keVという高エネルギーX線を高感度で検出可能な望遠鏡だ。それまでの高エネルギーX線検出器は、集光鏡を用いないものだったが、今回の高エネルギーX線集光望遠鏡は「ブラッグ反射」を利用した新規開発の集光鏡により、高エネルギーX線を曲げて集めることができる。また、焦点面で高エネルギーX線を効率よくとらえるため、「テルル化カドミウム亜鉛結晶」でできたピクセル型半導体検出器を新たに開発。これらの技術により、初めて高エネルギーX線の撮影ができるようになったというわけだ。

そしてその望遠鏡をNASAの小型科学衛星「NuSTAR(Nuclear Spectroscopic Telescope Array)」に搭載し、2012年6月にペガサスロケットにて打ち上げを実施(NuSTAR衛星プロジェクトは主にカリフォルニア工科大学が牽引し、NASAのジェット推進研究所が管理を担当)。今回の望遠鏡はこれまでの検出器に比べ100倍の感度で高エネルギーX線を観測することができることから、従来にない高エネルギーX線による鮮明な天体写真の撮影が可能になったのである。

そして研究チームは、高エネルギーX線集光望遠鏡でチタン-44の高画質な天体写真を撮るために、代表的な超新星爆発の残骸であるカシオペア座Aを、延べ2週間にわたって観測を行った。カシオペア座Aは、カシオペア座にある超新星残骸で、地球から1万光年ほど離れている。太陽よりも約10倍以上も重い星が、その最期に重力崩壊を起こして、約350年前に爆発したと考えられている。現在では爆発で吹き飛んだ物質が、視直径で5分角、距離に換算すると20光年ほどに拡がっている状況だ。

撮影データから宇宙放射線によるノイズの除去や集光鏡のゆがみによる像の拡がりの修正といった画像処理を行ったのが、画像1である。青はチタン-44の空間分布を表している。画像2と3は、2004年にChandra衛星の低エネルギーX線望遠鏡で撮影されたもので、画像2の赤は鉄の、画像3の緑はケイ素およびマグネシウムの空間分布を表す。画像4は、画像1~3の元素分布に、低エネルギー連続X線(黄色)の空間分布を合成したものだ。各図の外枠は、1辺24光年の長さに相当する。

画像1(左):青色は、高エネルギーX線集光望遠鏡で撮影した、チタン-44の空間分布。画像:NASA/JPL-Caltech。 画像2(右):赤は鉄の空間分布。画像:NASA/JPL-Caltech

画像3(左):緑はケイ素およびマグネシウムの空間分布。画像:NASA/JPL-Caltech 画像4(右):画像1~3に低エネルギー連続X線(黄色)の空間分布を合成した、カシオペア座Aに存在する金属元素の空間分布。画像:NASA/JPL-Caltech

今回の高エネルギーX線集光望遠鏡でなければ撮影できなかったチタン-44だが、この金属原子がどういうものかというと、放射性同位体であることは冒頭でも述べたが、陽子も中性子も22個ずつからなり、半減期は60年でだ。崩壊した後は「スカンジウム-44」になる。このスカンジウム-44の半減期はわずかに4時間しかなく、すぐさま「カルシウム-44」に崩壊。カルシウム-44は安定核なので、そこで連鎖崩壊はストップする。

チタン-44は崩壊していく過程で固有のエネルギーを持つ高エネルギーX線を複数本、さらに陽電子も放出するので、その内の68および78keVの高エネルギーX線を集光望遠鏡で高感度に検出して(画像5)、今回のチタン-44の空間分布の撮影に成功したしたというわけだ。

画像5。チタン-44の崩壊模式図。画像:NASA/JPL-Caltech

今回の天体写真からチタン-44は爆心から非対称的に分布していることがわかり、超新星爆発が非対称的に起こったことが明らかになった。この結果、これまで提唱されてきた超新星爆発モデルの内「合成された元素が球対称にまき散らされる」モデルや、「ある方向にのみ軸対称に吹き飛ぶ」モデルは適切ではないことがわかったのである。

また、鉄元素はチタンと同じ元素合成プロセスで生成されると考えられているが、すでに見えていた鉄の空間分布と今回わかったチタン-44の空間分布が異なるという観測結果も得られた形だ。その点に関しては興味深いという。チタン-44を多く検出した爆心地近くは、大量の鉄も同様に存在しているものの、自由電子の状態に影響して鉄から低エネルギーX線が出ていないからか、もしくは鉄とチタンを引き離す未知の機構が働き、爆心地には鉄があまり存在しないからと考えられるとした。

高エネルギーX線の強度から推定したチタン-44の爆発時の総質量は、約2.5×1026kgとなり、地球の全質量の約40倍に及ぶ大量のチタン-44が合成されたことを示している。これらのチタン-44は、超新星爆発時に一気に合成されたと考えられるという。

超新星爆発と、それに伴う元素合成の時間的な変化の様子は、スーパーコンピュータを用いて物理方程式を解くことで、調べられてきた。その元素合成モデルをより精密にするためには、爆発時に生成される不安定核の質量や寿命といった、原子核の基礎的な情報を網羅したデータベースが必要だという。また計算したモデルが正しいのかどうかを検証するためには、今回のような天体観測による元素の実情報が欠かせない。

ちなみに、理研 玉川高エネルギー宇宙物理研究室は、2015年にJAXAが打ち上げを予定している次期X線観測衛星「ASTRO-H」計画にも参画している。ASTRO-H衛星は、日米を中心に世界の研究者が協力して開発を進めている衛星で、元素と電子の反応により放出される低エネルギーX線を、従来の10倍以上の感度で検出できる装置を搭載する計画だ。この新しいX線検出装置により、これまで宇宙では確認されていなかった元素が、超新星爆発から見つかるものと期待されているとした。

理研は、超新星爆発や元素の合成を高速にシミュレートできるスーパーコンピュータ「京」や、中性子過剰で不安定な元素を人工的に作り出すことができる重イオン加速器「RIビームファクトリー」も所有している。こうした充実した研究インフラを効率よく使うことで、今後、物理学上の重大な問題である超新星爆発や元素合成過程についての理解が飛躍的に進むと期待できるとした。