同成果は、山形大 有機エレクトロニクス研究センターの時任卓越研究教授、宇部興産 有機機能材料研究所のグループによるもの。詳細は、3月14日に山形県米沢市で開催される「高分子学会 有機エレクトロニクス研究会 第3回異業種交流会」、および3月17日~20日に青山学院大学 相模原キャンパスで開催される「第61回応用物理学会春季学術講演会」にて発表される。

プラスチックフィルム上に回路を印刷して電子デバイスを作製するプリンテッドエレクトロニクス技術は、タッチパネルの配線などで実用化が始まりつつある。今後は、より複雑な電子デバイスである半導体集積回路に同技術を応用することが期待されており、高性能な導電インク、絶縁樹脂、半導体インクなどの材料開発が活発に行われている。

半導体は、p型半導体とn型半導体を組み合わせることで電気の流れをコントロールすることができ、集積回路にはこれら2種類の半導体が使われている。これまで、有機溶媒に溶かすことができ、印刷法に適用可能な、移動度が高いp型有機半導体は数多く報告されてきたが、n型有機半導体はほとんど報告がなかった。これは、n型有機半導体が、大気中の水や酸素に対して化学的に弱いことが原因で、電子デバイスに用いても高い電気特性を維持することが難しかったためである。

今回、課題となっていたn型有機半導体の安定性を大幅に改善し、有機溶媒に溶けやすい性質と、高い電気特性を両立することに成功した。同材料を用いることでp型、n型両方の半導体が揃い、低価格で低消費電力な有機集積回路の実現が可能となり、ウェアラブル、モバイル、フレキシブルといった用途に使われる新しい電子デバイスの開発への寄与が期待できるとしている。

具体的には、山形大学の高性能半導体に関する材料設計の知見、および印刷法による電子デバイス作製・評価技術と、宇部興産の有機合成に関する知見と技術を活かし、共同で大気中での安定性と溶解性、高い電気特性を兼ね備える有機半導体の分子設計の検討を進め、材料合成、高純度化、トランジスタ素子作製、素子性能評価およびトランジスタ素子構造の最適化を行った。これにより、3cm2/Vs以上の高い電子移動度が得られた。さらに、従来のn型有機半導体では、大気中の水、酸素によって有機半導体層の中での電子移動が妨げられやすいことが問題となっていたが、水、酸素による電子伝導への影響を大きく低減することを目的に、分子全体に強い電子受容性(電子の受け取り易さ)を付与することで、従来のn型有機半導体では実現が困難だった高い安定性を実現している。

現在、同材料を有機集積回路に応用するためのトランジスタ素子の構造の最適化と、CMOS回路などの試作の検討と並行して、さらに移動度と溶解性を改善するなど、より使いやすい有機半導体とする目的で分子構造の改良を進めている。加えて、この有機半導体を用いたインクジェット印刷などによる印刷集積回路の試作に取り組み、同技術を応用して、有機トランジスタを用いたRFIDタグ、フレキシブル生体センサやフレキシブルディスプレイなどの開発を進めていくとしている。

なお、宇部興産は、同n型有機半導体材料のサンプル提供を開始する。

今回開発されたn型有機半導体材料によって実用化が期待される製品