東京大学は2月14日、獨協医科大学越谷病院、済生会横浜市東部病院との共同研究により、患者数が極めて少ない子供の肝臓に関する希少疾患で、無治療の場合には思春期前に肝不全に陥り、死に至る難病である「進行性家族性肝内胆汁うっ滞症2型(PFIC2:Progressive Familial Intrahepatic Cholestasis type2)」患者を対象とした臨床研究を実施し、尿素を合成する仕組みに異常が生じる「尿素サイクル異常症」の治療薬として承認されている医薬品「フェニルブチレート」が、治療効果を示すことが見出されたと発表した。

成果は、東大大学院 薬学系研究科薬学専攻の林久允 助教、同・楠原洋之教授らの研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、「The Journal of Pediatrics」に掲載される予定だ。

PFIC2は、「肝細胞毛細胆管側膜」に発現する「Bile Salt Export Pump(BSEP)」の遺伝子変異が原因となり発症する。現在、PFIC2に奏効し得る唯一の治療法は肉体的、金銭的に負担の大きい肝移植であることから、薬物による治療法の開発が切望されている状況だ。しかし、BSEP遺伝子の変異がどのようなメカニズムでBSEPの機能低下を引き起こすのかが不明であるため、治療薬の開発は進んでいなかった。

林助教らの研究チームは、これまでの基礎研究において、PFIC2症例の60%以上では、肝細胞毛細胆管側膜におけるBSEP発現の減弱に伴い、肝細胞当たりのBSEP機能が低下していることを明らかにしている。その後に独自の実験系を構築し、種々の既存医薬品の薬理作用を再評価することにより、尿素サイクル異常症の治療薬として使われているフェニルブチレートが、BSEPの細胞膜発現量を増加させることを見出していた。

フェニルブチレートの薬理作用は、ラットにおいても確認され、フェニルブチレート投与群では、フェニルブチレートを投与していないコントロール群に比べて、肝細胞毛細胆管側膜におけるBSEP発現量が増強しており、BSEP機能も増加していることがわかっている。

また、尿素サイクル異常症患者の検体を用いた「レトロスペクティブ解析」(研究を開始する時点から、過去の情報を遡って調査する研究)では、フェニルブチレートの服用開始後に採取された肝組織、血液において、BSEPの発現量増加、ならびにBSEPの機能低下の指標となる血液中胆汁酸濃度の減少が観察されていた。以上の知見は、フェニルブチレートが、肝細胞毛細胆側膜のBSEP発現が減弱しているPFIC2症例に対して奏効する可能性を示すものだが、確かめられたことはなかったのである。

そこで研究チームは今回、フェニルブチレートのPFIC2症例に対する有効性、安全性を検証するために、PFIC2患者を対象としたフェニルブチレートの「用量漸増試験」(試験薬の用量を徐々に上げていきながら、その有効性を評価する試験方法)を実施した。

フェニルブチレートの投与量が尿素サイクル異常症に対する認可量より少ない試験期間中は、臨床所見、血液・生化学検査の改善は認められなかったが、認可量まで増量すると、肝機能の指標となる生化学検査値(血液中のAST、ALT、ビリルビン濃度など)が低下し始め、最終的には検査値が正常化したのである。

また試験開始前、および終了時に行った肝生検サンプルを用いて実施した病理組織学的検査においては、フェニルブチレートの服用により、BSEP発現量が増加し、胆汁栓や巨細胞性変化といったPFIC2に特徴的な病理像が顕著に改善していることが確認された。

今回の成果は、フェニルブチレートが、肝細胞毛細胆側膜のBSEP発現が減弱しているPFIC2症例に対する治療効果を示すものであり、今後、治験を経てフェニルブチレートのPFIC2に対する効能が追加承認されれば、肝移植に代わる新規治療法として普及することが期待されるという。そこで研究チームは現在、治験開始に向けた準備を進めているところだ。治験の参加に興味がある方は、遺伝子変異検査などによる確定診断も併せて実施することから、林助教まで問い合わせてほしいとしている。