京都大学は2月7日、理化学研究所(理研)との共同研究により、自己免疫疾患「全身性エリテマトーデス(SLE)」の原因遺伝子の1つを発見したと発表した。

成果は、京大 ウイルス研究所の藤田尚志教授、同・加藤博己准教授、理研 バイオリソースセンター 疾患も出る評価研究開発チームの野田哲生チームリーダーらの共同研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、米国東部時間2月13日付けで米科学誌「Immunity」に掲載された。

ウイルスセンサ「RIG-I」および「MDA5」を発見した藤田教授らは、これらのウイルスセンサがどのようにウイルスの侵入を認識し、抗ウイルス応答を惹起するかについての研究を進めてきた。そうした中で、理研の野田チームリーダーらが獲得したのが、SLE様の症状を自然発症するマウスだった(画像1)。変異マウスは、脾臓(ひぞう)の肥大が認められ、腎臓や皮膚の炎症も見られる。また、体が小さく、生後2カ月程度から死に始める。基本的に生殖能力がないことなども特徴だ。

画像1。マウスの個体写真。右が野生型、左が変異マウス(6週齢)

SLEは日本における患者数は2~4万人とされ、細胞の核成分に対する抗体(「抗核抗体」、「抗dsDNA抗体」)を中心とした自己抗体(自分の体の成分と反応する抗体)が作られ、一般的に「糸球体腎炎」、抗核抗体の上昇、皮膚炎などの病態が認められるなど、全身の諸臓器が侵されてしまう自己免疫疾患の1つだ。

そのマウスをさらに調査すると、MDA5に変異があることが判明。そこで藤田教授らは野田チームリーダーらと共同研究を実施することにし、なぜMDA5における変異がSLE様の症状を引き起こすか、その機構の解明を実施することにしたというわけだ。

まずマウスの病態の詳細な解析が行われ、併せてMDA5タンパク質に対してその変異がもたらす影響を、タンパク質の構造、抗ウイルスシグナル伝達能などの側面からの解析も行われた。これらの解析により、この変異マウスにおいて、普段はウイルス感染なしには活性化しないMDA5が恒常的に活性型となり、常に抗ウイルス応答を引き起こしている状態であることが判明。さらに、樹状細胞やマクロファージといった免疫細胞の活性化が病態形成の主因となっている可能性を示唆することにも成功したのである。

成果としては、獲得できたマウスが、今後SLEの発症機序の解明に役立つ可能性や予防、診断、治療法の確立に寄与する可能性があることが挙げられた。また、ウイルスに対する免疫機構の破綻が自己免疫疾患を引き起こし得るという概念を直接的に証明することができたことも大きな成果だという。

藤田教授らは今後、獲得したマウスをより詳細に解析することで、それらを実現したいとしている。またさまざまな薬剤を用いて、SLEの症状(特に腎臓における炎症)が抑えられるかを検討していきたいという。そしてウイルスセンサとして藤田教授らがこれまで注目してきたMDA5の異常活性が、SLE以外の自己免疫疾患の原因であるかどうかを検討することも重要だとしている。