京都大学iPS細胞研究所の山中伸弥所長(教授)は、理化学研究所「発生・再生科学総合研究センター」の小保方(おぼかた)晴子・研究ユニットリーダーらが作製に成功した万能細胞「刺激惹起性多能性獲得(STAP)細胞」についての 「考察」を、同研究所のホームページに掲載した。STAP細胞と比較されたiPS細胞(人工多能性幹細胞)に関して「必ずしも正しい情報が共有されていない」として発表したもので、iPS細胞で克服された“がん化リスク”の問題や、今後のSTAP細胞の課題などについて説明している。

山中教授は掲載した「iPS細胞とSTAP幹細胞に関する考察」で、「STAP細胞」と「STAP幹細胞」の違いを述べている。「“幹細胞”は多様な細胞へと分化する能力(多能性)と、自らと同じ能力の細胞へと分裂し続けられる能力(増殖能)を持たなければならない」と説明した上で、「STAP細胞」は培養することで一部の細胞が増殖能を獲得し、“多能性”と“増殖能”を併せ持つ「STAP幹細胞」に変化することから、「幹細胞」であるiPS細胞やES細胞(胚性幹細胞)との比較では、「STAP細胞」ではなく「STAP幹細胞」と行うべきだと指摘した。

“低い”とされるiPS細胞の作製効率については、マウスのiPS細胞作製を発表した2006年の段階では約0.1%だったが、09年には20%まで上昇させたこと。昨年は、イスラエルの研究グループが因子導入後、7日間ですべての細胞をiPS細胞にしたことを述べた。これに対し、“酸性刺激”によって分化細胞から「STAP細胞」へ誘導すると、およそ8割の細胞が死滅し、生き残った細胞のうちの3分の1から2分の1、元の分化細胞のうちの約10%が「STAP細胞」になったと考えられること。さらにSTAP細胞から「STAP幹細胞」になるのは10回に1、2回と、作製効率はiPS細胞と同等以下とみられることを述べた。

iPS細胞の“がん化リスク”については、06年の発表当初のiPS細胞では、レトロウイルスを使って「c-Myc」という発がんに関連する遺伝子を染色体に取り込ませていた。しかし、最新の再生医療用iPS細胞の作製では、導入した遺伝子が一時的に発現し、染色体には取り込まれないで消える方法に変更し、c-Mycも発がん性のない因子に置き換えることで、大幅にリスクを低減させた。その結果、安全性は動物実験で十分に確認され、理化学研究所などによるiPS細胞を用いた臨床研究が厚生労働省に認可されたという。

「STAP幹細胞」の安全性については、“酸性刺激”によって半数以上の細胞が死滅するようなストレスが細胞にかかることもあり、「細胞内における遺伝子の状態がどうなっているか、まだ十分には分かっていない」と指摘した。そのため、ヒトの細胞で「STAP幹細胞」ができた場合には、動物実験などによる十分な安全性の検証が必要であることを述べ、さらに技術の普及には、再現性や互換性、知財についての検証も重要な課題となることを述べた。

STAP細胞について、山中教授は「細胞の初期化メカニズムに迫る上で極めて有用で、未来の医療、たとえば移植に頼らない体内での臓器の再生、失われた四肢の再生などにつながる大きな可能性のある技術だ」と述べ、iPS細胞研究所としても研究に取り入れていく考えを明らかにした。

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